HOME > 占領期を知るための名著 > 占領期を知るための名著 Vol.23 『清算されない昭和 朝鮮人強制連行の記録』林えいだい
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BOOK占領期を知るための名著
- VOL.23
- 『清算されない昭和
朝鮮人強制連行の記録』
林えいだい
ここでは、小説家・文芸評論家の野崎六助が
過去の名著から占領期の時代背景を考察します。
占領期を知るための名著シリーズ 第23回
contents
『清算されない昭和 朝鮮人強制連行の記録』林えいだい
ジャーナリスト林えいだいの著作の多くは、朝鮮人強制連行に関する膨大な聞き書きによって構成されている。その途が平坦でなかったことは、想像に余りある。
苦労して取材対象を捜しあてても、彼らの心をひらかせ、言葉を語らせることは容易ではない。「日本人なにしに来た。忘れてしまいたい事実を掘りだして、こちらの傷口をかき乱す権利がオマエなどにあるのか」——被害を受けた者がぶつける恨みが、一方的に著者に叩きつけられる。
これは、林えいだいの著作の基幹的な情景といってもいい。何度となく繰り返される。
そこでは後景にすぎなかった朝鮮人強制連行のテーマが『強制連行・強制労働 筑豊朝鮮人坑夫の記録』一冊にまとまるには、さらに、数年を要した。
ここで、著者は、上野英信、石牟礼道子、森崎和江らの、九州在住の記録文学者の列に新たな名を刻んだのである。
『強制連行・強制労働 筑豊朝鮮人坑夫の記録』
1981.12 徳間書店
戦後、鄭は故郷にもどるが、さらに残酷な現実に直面させられる。家族は、鄭が強制連行されたという事実を知らされていなかった。のみならず、その事実を「恥」として隠そうとすらした。祖国と家族のもとに居場所を見つけられなかった鄭は、日本に還り、在日の一人となった。やがて、指紋押捺拒否闘争に立ち上がり、林の著作に出会うことになる。
にわかには信じがたいような波乱の物語だが、記録者があって初めて後世に残しえた証言なのだ。
『朝鮮海峡 深くて暗い歴史』
1988.03 明石書店
『消された朝鮮人強制連行の記録 関釜連絡船と火床の坑夫たち』
1989.08 明石書店
著者の踏査する地図は拡がる一方である。筑豊に基点を置き、朝鮮、長野県松代、サハリン、ニューギニア、シベリア……。旧大日本帝国の版図が逆踏査され、そこに植民地人の犠牲の痕が「再現」されてくる。これらを通読するだけでも疲労困憊におちいるが、独力でやりぬいた著者のエネルギーには驚嘆せざるをえない。
中から一冊だけ選ぶとすれば、「グラフィック・レポート」と銘打たれた『清算されない昭和 朝鮮人強制連行の記録』(1990年)が最適だろう。六百余枚の写真を主体に、短い解説文を付した体裁だが、著者の二十年余の(この時点での)調査行の成果がよく示されている。なお、著者は、これが、中間的な暫定的レポートであると強調している。
どれもが中間報告であっても、代表作を、『消された朝鮮人強制連行の記録 関釜連絡船と火床の坑夫たち』とするのに異論は出ないだろう。六十三名の聞き書きからなり、七百ページを超える大冊である。著者によれば、インタビューは三百数十名におよんだというから、五分の四の証言はは活字にならなかった計算になる。
叙述は一貫して揺ぎないが、悪くいえば、単調におちいるところもある。
清算されない昭和は清算されない平成へと、そのまま引き継がれ、国際社会システムのグローバリゼーション化も相まって、歴史の忘却と逆流はますます激しい。虚構に依りかかる歴史修正主義は、「植民地主義の罪過」をわれわれの脳裏から消し去ろうとしている。
著者の記録は古びてしまったのだろうか。朝鮮人強制連行は日本人自身の問題である、という著者の一貫した主張は、すでに「時代遅れ」なのだろうか。
否。
否である。
林えいだいの書いた「愚直な物語」は、再度、いや、何度でも蘇ってこなければならない。
次回も、その著書から『松代地下大本営 証言が明かす朝鮮人強制連行の記録』を紹介したい。
- 『清算されない昭和 朝鮮人強制連行の記録』
林えいだい
1990.9 岩波書店
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- プロフィール:野崎六助(のざき ろくすけ)
1947年 東京生まれ。
1960年から1978年 京都に在住。
1984年 『復員文学論』でデビュー。
1992年 『北米探偵小説論』で日本推理作家協会賞受賞。
1994年 『夕焼け探偵帖』で小説家デビュー。
1999年 小説『煉獄回廊』
2008年 『魂と罪責 ひとつの在日朝鮮人文学論』
2014年 電子書籍kidle版『李珍宇ノート』『大藪春彦伝説』『高村薫の世界』
http://www002.upp.so-net.ne.jp/nozaki
http://atb66.blog.so-net.ne.jp/ - プロフィール:野崎六助(のざき ろくすけ)
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