占領期を知るための名著 Vol.31 『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること』『沖縄・米軍基地 観光ガイド』 須田慎太郎写真 矢部宏治文 書籍情報社 | GHQ.club

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『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること』 『沖縄・米軍基地 観光ガイド』 須田慎太郎写真 矢部宏治文 書籍情報社

GREAT BOOK占領期を知るための名著

VOL.31
『本土の人間は知らないが、
沖縄の人はみんな知っていること』
『沖縄・米軍基地 観光ガイド』
須田慎太郎写真 矢部宏治文 書籍情報社

ここでは、小説家・文芸評論家の野崎六助が
過去の名著から占領期の時代背景を考察します。
占領期を知るための名著シリーズ 第31回

contents

 

『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること』
『沖縄・米軍基地 観光ガイド』
須田慎太郎写真 矢部宏治文 書籍情報社

 じつに不思議な本だ。
 タイトルが大まか内容を語っているが、中味を見るまで、真価はわからない。
 いわゆる「旅行ムック」の体裁であるが、米軍基地を「観光したい」者がいるだろうか。本土人の習性は、米軍基地を「視ない」ことだから、観光リゾートに沖縄を選んでも、その習慣は変わらないだろう。「観光のために」米軍基地めぐりをガイドする——これは、深遠なジョークだ。
 ページをめくるごとに、著者たちの深い企みに引きずりこまれていく。

 タイトルは二つ並ぶ。
 普通の本なら、どちらかがサブタイトルになるが、本書では同格。
 内容も、二つのブロックに分かれる。
 『沖縄・米軍基地 観光ガイド』——A。須田慎太郎による基地の島の写真。これに、ガイド・マップがつき、バス経路の案内もある。これが二十九カ所。
 『本土の人間は知らないが 沖縄の人は みんな知っていること』——B。
 これは「米軍基地の背景説明」と銘打った矢部宏治の文章。二十八項目あり、その十項目に「本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること」が併記される。
 その基調は「07 天皇に切り捨てられた島」などに明らかなように、戦後沖縄史の概説として読める仕組みだ。
 その補足として、基地を知るための「44冊と6個のサイト」のブックガイドもつく。
 Aの参考としては、一般的観光スポット、世界遺産、基地周辺の観光ポイントにも、スペースがさかれている。(どこに行こうが、基地は視える)。

 こうした成り立ちの本だが、基地反対論を正面から主張する旗幟鮮明な書物より、よほど直截に軍事植民地の不条理を発信してやまない。
 二人の著者は、ともに沖縄問題に関しては「超初心者」を自認する。本書をつくるに到ったきっかけは、矢部によれば、民主党内閣のあっけない(第一の)頓挫にあった。基地移設問題でつまずいた鳩山はたちまち権力の座を「逐われた」。アレはいったいナンだったのか。素朴な疑問が自分を「植民地の島」に行かせた、と著者は書いている。
 取材撮影は、二〇〇九年から翌年にかけて行なわれ、本は、「三・一一」後の二〇一一年に刊行された。沖縄では版を重ねたが、本土ではあまり「売れなかった」という情報もある。
 「はじめに」から。

 正直それまで、沖縄の基地については何も知りませんでした。基地問題にくわしい研究者やジャーナリストの知り合いも、ひとりもいませんでした。ただ沖縄県のホームページから米軍基地の資料をダウンロードし、それを片手に基地めぐりを始めたのです。
 ところが沖縄で撮影を開始した初日から、ぼくら取材チームは不思議な体験をすることになります。出会う人、出会う人がみんな、ぼくらを助けてくれるのです。特別な人ではありません。道を聞いた道路工事のおじさん、茶店のおばあ、散歩中のおじい、買い物途中の親子、そしてもちろん基地の前でテントを張ってる反対運動の人たちなど、基地の近くで出会った人たち全員が、撮影のためのベストスポットを教えてくれたり、地図を書いてくれたり、歴史を語ってくれたり、追加取材をしたほうがいいスポットを教えてくれたりしたのです。

 写真はすべて、公共の場所(道路・公園・海岸など)から、「適切な距離を」おいて撮られた風景であり、「観光」写真だ。だが、基地を撮影対象とすることにまつわる「危険」から免れるわけではない。にもかかわらず「ベストショット」を得ることは、土地の人に多く助けられ、可能だったと、著者はいう。
 「観光ガイド・マップ」という意味は、本書にあって、まったく独自の用法に顛倒されている。
 一点だけ、画像を引用させてもらう(142-143p)。
 「世界一危険な」嘉手納基地の弾薬庫を遠望する風景。観光ポイント(ただし旅行ガイドには載っていないという)の倉敷ダムの展望タワーからのショット。


(クリックすると拡大表示されます)

 なお、本書のコンテンツは、出版元のホームページから五〇パーセント(177pまで)を、PDFファイルでダウンロードできる(キャンペーン期間限定ということだが)。
http://www.shoseki-johosha.com/

 

  • 『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること』
    『沖縄・米軍基地 観光ガイド』

    須田慎太郎写真 矢部宏治文 書籍情報社 2011.6

 

野崎六助
プロフィール:野崎六助(のざき ろくすけ)
1947年 東京生まれ。
1960年から1978年 京都に在住。
1984年 『復員文学論』でデビュー。
1992年 『北米探偵小説論』で日本推理作家協会賞受賞。
1994年 『夕焼け探偵帖』で小説家デビュー。
1999年 小説『煉獄回廊』 
2008年 『魂と罪責 ひとつの在日朝鮮人文学論』
2014年 電子書籍kidle版『李珍宇ノート』『大藪春彦伝説』『高村薫の世界』
http://www002.upp.so-net.ne.jp/nozaki
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