コラム 帝銀事件とは何だったのか-66 Vol.66 原渕 勝仁さん | GHQ.club

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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-66

VOL.66
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-66

 

 人間の記憶というものがいかにいい加減で曖昧なものであるか。

 これに関しては、これまでも特にアメリカなどではさまざまな研究・実験が行われ、証明されている。したがって、アメリカなどでは犯人の首実検、つまり「お前が目撃した犯人はこいつか」と問う場合も決して、一対一で対面させるなどということはしないと聞いている。こんな場面をハリウッドの犯罪ものの映画やドラマで見たことがあると思うが、逮捕されている被疑者を何人かの風貌のよく似た人物らの中に紛れ込ませ、壁を背に横一列に並ばせる。そして目撃証人をその前に立たせ「この中に犯人はいるか」と捜査官が聞いている。……この方法がアメリカでは他の方法よりは目撃証言の精度が高く、信憑性があるとみられているそうなのだ。アメリカでいまもこの方法がとられているか否か詳しくは知りえないが、いずれにしても余ほどの決定打がない限り、目撃証言に科学的な担保があるとは、わたしには思えない。

 随分と曖昧な物言いになっているが、わたし自身、このテーマに関しては確信を持ってここでお話できる知識を持っているわけではない。ただ、帝銀事件の再審弁護団の会議でしばしばお顔を拝見するこのテーマを研究している〝権威〟の方々から色んなお話をお聞きしている。それが『目撃証言の心理学』(北大路書房)の著者である日本大学の厳島行雄教授と駿河台大学の原聡教授である。お二人には弁護団会議のあとなど、八丁堀の焼き鳥屋で色んな興味深いお話をお聞きした。このテーマにご興味のある方には是非、この著書を読むことをお薦めする。

 帝銀事件では、当時は人権意識も低く、ましてや戦前の旧・刑事訴訟法のもとで捜査が行われていたので、当然、あのアメリカ方式が捜査の過程で採用されていたとも聞いていない。とにかく、帝銀及び未遂事件の生き残りを平沢の目の前に連れて行って、「お前が目撃した犯人はこいつか」と聞いているのである。人間の記憶は曖昧である。しかし、曖昧なゆえにのちに誤った記憶が埋め込まれる。それが平沢に犯行当時の犯人の扮装をさせ、毒を飲ませる演技までさせたあの映画である。映画のなかでは、犯人が毒物を自分で飲んで見せる場面まで再現しているそうで(実際の映画を見ていないので確証はないのだが)、そのテクニックは毒薬を犯人が注ぎ分けるピペットにあらかじめ水を入れていて、犯人は毒ではなくその水を自分の湯飲みに入れたからなんともなかったと、なんの確証もないことを検察官が勝手にさも事実であるかのように映画に入れているとのことである。

 確かに、この自分が飲んで見せるというのはどういったマジックを使ったのか今もって謎といわれていて、生き残りの中に毒薬にガソリン臭がしたとの証言があることから毒薬の薬壜の上澄みに油を入れていて、犯人は自分はその上澄みを、行員たちには下の毒薬を巧妙にピペットで吸い取って飲ませたのだという説も多くの識者によって語られたが、これとても科学的な納得の行く証明はないわけで、誰かの推測に過ぎないのだ。ただ、毒物をまず自分が飲んで見せるというのは陸軍中野学校で実際に隊員が実践していたことであるとの証言もある。しかし、これもあくまでも元・隊員の証言というだけで、わたしには何の確証もないのである。

 

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  • 【原渕勝仁の著書】
  • 『若松孝二と赤軍 レッド・アーミー』
  • 情況新書011/世界書院・発行
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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など