コラム 帝銀事件とは何だったのか-63 Vol.63 原渕 勝仁さん | GHQ.club

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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-63

VOL.63
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-63

 

 帝銀事件が発生したのは昭和23年1月26日のこと。

 この頃、平沢は日本橋もしくは銀座の三越で個展を開いていた話をしたが、直後の2月2日から2月4日まで伊東に写生旅行に出かけている。これは当初から予定していたことで、それは泊まった旅館に確認すれば明らかであろうが、捜査本部では犯行後に身を隠すための逃避行とみなしていた。さらに平沢は2月10日に氷川丸で横浜を発ち、実家のある小樽に向かっている。この切符は船舶運営会に勤める二女の婿、そう何度もわたしがここに登場させた山口某が用意したものである。弟の貞健(4男)が戦地から帰るが奔馬性肺炎を患い入院することになりその見舞いに平沢は小樽に戻ったのである。しかし、捜査本部はそれを〝逃亡〟と位置づけていた。

 よく平沢のことは〝帝展無鑑査〟の高名な画家と形容される。事実、平沢はこれは誇張などではなく、小樽を代表する風景画家として、また、テンペラ画の日本における権威としてかなりの有名人であった。それは戦時中に〝軍命〟で絵を描き、それが当時の内閣官房長官室に飾られていたことを以ってしても証明されるであろう。さらに、彼の雅号である「大暲」が、あの横山大観によって名づけられたという事実である。平沢が帝銀事件で逮捕されたのち、このことを聞かれた横山大観がそんな事実はないと否定した。このことを獄中で聞いた平沢はこれまでの自分の画業のすべてが否定されたと感じ、立ち直れないほどのショックを受けたと支援者に語っている。以後、獄中での平沢は「大暲」の雅号を封印して「光彩」で通している。つまり、平沢は本物の画家、全身これ絵を描くために生きていた人間であったわけだ。

 当然、それは生活の糧を稼ぎ出すものでもあったわけだ。戦時中、生活のために〝春画〟を描いていたというのも彼が高名な画家であったがために依頼があったことで、無名の画家の〝春画〟を高く買う物好きなどいるはずがない。豪商が多くいた小樽では有名な料亭が平沢の〝春画〟を家宝のように蔵に保管していて、年に一度、正月に慶事として家族でそれを回し見していたほどである。

 捜査官が〝逃避行〟〝逃亡〟と位置づけている伊東に関しても、支援者の間では、そんな不純な理由で写生旅行に行って描いた絵ではないことは絵を見ればわかると。事実、その伊東の海岸を描いた風景画をわたしは写真資料で見たことがあるが、風景画家・平沢の絵として充分過ぎるほどの出来ばえであることは認めるが、そもそもなぜ、平沢がこの時期にこの絵を描く意味があったのか。誰かに依頼されたものか。それとも自ら発したモチーフであったのか。何れにしても皇太子に献上した『春遠からじ』などとは比べものにならないほど陳腐な風景画であるようにわたしには見受けられる。支援者の間では犯罪を犯してすぐの人間にこの静謐な画調は描けないと力説する御仁がいるが、支援者の気持ちとしてはそう思いたい気持ちは理解できるが、帝銀事件の真実を求めるものにとって、その指摘に〝平沢無実〟の根拠を見出すことなど到底、わたしにはできない。

 検察官にとっても、そのもやもや感は拭いきれなかったらしく、この絵の意味を問い続けたいとの意図なのか。この絵はいまも検察庁の証拠品倉庫に保管され、平沢の死後も返還されていない。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など