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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-62

VOL.62
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-62

 

 以前も話したが、この犯人が犯行時に名刺を使う場合、「厚生技官」「医学博士」という肩書きがどれだけ効果的であるのかを熟知していたはずだと。ならば帝銀椎名町支店でもその範にそって名刺を用意したはずである。「山口二郎」名刺にはしっかりとそれが明記されている。犯人がまた新たな名刺を用意したとして、しかし、それが銀座8丁目のあの名刺屋のようにみつかっていないのである。これだけ大きな、日本国中を震撼とさせた事件である。もし不明の怪しげな名刺を印刷した業者がいれば、名乗り出てもおかしくはないと思うのだが、みつかっていない。

 単純に「山口二郎」名刺が帝銀でも使われていたのであればすべての犯行は同一犯と断定して間違いないが、この帝銀椎名町支店で使われた名刺がいまもって不明であることから『疑惑α』の著者・佐伯省氏の推理、つまり、前の二つの未遂事件は平沢が、本番の帝銀はOがやったという説に少しの可能性が残されていることになるわけである。わたしがそれを信じているか信じていないかということではなく、なんとなく歯切れは悪くて申し訳ないが可能性としては、まったく100%ありえない説ではないということだ。しかし、何度も言うがそれは推理であって、確かな証拠はいまもってどこにもない。

 こういった重要事件の証拠物はいまも検察庁に大切に保管されていると聞いている。これはわたしが「平沢貞通氏を救う会」に出入りするようになるもっと前。遠藤誠弁護士が弁護団長として元気に活動していた時代にその検察庁内の証拠物を確認に行っていて、そのときの写真資料を武彦さんから見せられたことがあった。犯行に使われた16人分の茶碗(犯人が使ったものは犯行後に持ち去っているので当然ないのだが)はなぜかハトロン紙のようなものに一個一個、包まれていて、茶碗の内部には毒液のシミのようなものがべっとりと付着している。確かにこれをこそげ落として、現代科学の粋を集めて鑑定すればただの青酸カリか、登戸研究所が開発した遅効性の青酸ニトリル(アセトン・シアン・ヒドリン)か判別できるのではなかろうか。第20次再審弁護団の活躍に期待が大である。

 このほかに先ほど、犯人は自分が毒物を飲んでみせた茶碗は証拠隠滅のために持ち去っていると話したのだが、銀行の台所にお客に出したと思われる湯のみ茶碗が一つ、置かれていたのだそうである。それはいかにも来客用に出された湯のみ茶碗。ひとつだけぽつんと台所の隅に置かれていた。しかし、吉田支店長代理の記憶ではこの日の来客はあの帝銀犯人だけで、そこに付着した指紋は帝銀椎名町支店の誰のものでもないことが判明。ということは犯人の指紋であろうということで、平沢の指紋と照合された。しかし、それは平沢のものではなかったのだ。平沢が帝銀の犯人でないとしたら真犯人の指紋ということになるではないか。

 実はこれにも面白い後日談があって、あの佐伯省ことIさんが探偵を使って元・特務機関員で水彩画家の歯医者Oの指紋を採取するためくだんの歯科医院に赴かせたのだそうである。探偵は首尾よくOが掴んだコップをゲットして持ち帰った。しかし、どうやって検査してもそこから指紋は検出されなかったのである。元・特務機関員のOは手の指紋をすべて消し去っていたのである。

 

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  • 『若松孝二と赤軍 レッド・アーミー』
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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など