コラム 帝銀事件とは何だったのか-60 Vol.60 原渕 勝仁さん | GHQ.club

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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-60

VOL.60
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-60

 

 佐伯省の『疑惑α』では、最終的な結論として予行演習か、もしくは失敗した(未遂事件)と見られている安田銀行荏原支店と三菱銀行中井支店の二つは平沢が実行犯で、帝銀椎名町支店のほうは元・特務機関員の歯科医Oがやったのではないかと推理していた。しかし、それは推理であって確たる証拠などどこにもない。でも、この未遂も含めて犯行のすべてが同一犯、あるいは同一グループの犯行と考えると、この名刺に関して犯人はどう考え、どう使えば効果的なのかを学習していたことが見えて来るのだ。

 昭和22年10月14日に犯人はその年に手に入れた「厚生技官」「医学博士」と書かれた本物の松井名刺を使って犯行に及んでいる。単なる嘘の名刺ではなく、本物の名刺がいかに銀行員を騙すのに効果的であるのかを犯人は実感している。そもそも日本人は権威に弱く、「厚生技官」「医学博士」と聞いただけで信用してしまう。ましてや犯人はGHQの担当官の名前なども出して更に信用させているのである。犯人が同じような犯行を次に行う場合、口先だけで名乗ってはだめだ。荏原支店のときのように名刺が必要だと考えただろうことは容易に想像がつく。しかし、本物の「松井名刺」は荏原で既に使ってしまっている。そこで、次の中井支店のときに新たな名刺が必要となったのである。その「山口二郎」名刺は銀座8丁目の露天の印刷業者に犯人は依頼して作らせている。

 そこに「松井名刺」と同じように「厚生技官」「医学博士」と入れたのは、このこけおどしが効果的であると犯人が実感していたと思って間違いない。平沢がこの犯人(荏原と中井)であるという証拠はどこにもない。ただ、平沢はこの時期、日本橋だったか銀座だったかわたしの記憶が不確かではあるがどちらかの三越で自身の個展を開いていた。これは間違いのない事実である。この間、平沢は朝、中野の自宅を出てこの三越に通っていた。銀座4丁目の三越にしても日本橋にしても銀座8丁目の名刺屋には歩いて行ける距離である。これがとんでもない遠くの名刺屋ではなく、銀座8丁目というのが捜査員を平沢を犯人と感じさせるのにこれ以上なく好都合だったことになる。

 捜査員はその露天商に当然のように聞き取り調査をしている。斉藤安司という露天商は1月17日の土曜日に名刺を注文して翌・18日の日曜日の午前中に注文した名刺を取りに来たのは同一人物であるのに間違いはないのだが、50歳くらいの紳士というだけで顔は覚えていない。つまり、それが平沢だったかどうかの確実な記憶はないと証言している。それでは、逆に犯人が名刺を受け取りに来た18日(日曜日)の午前9時半から10時頃にかけて、平沢はどこで何をしていたのか。ここでも平沢は娘婿の山口某の名前を出して、山口の日暮里の自宅で麻雀をしていたと答えている。当然、親族の証言が裁判で認められるはずもなく、捜査員のだれもこの平沢の供述を信用してはいなかった。

 昭和23年1月19日(月曜日)に三菱銀行中井支店でこの「山口二郎」の名刺を使った犯人であるが、本番の帝銀椎名町支店では、吉田支店長代理に犯人は名刺を差し出しているのだが、犯人は犯行後にそれを持ち去っていて、それが「山口二郎」だったか何であったか生き残った吉田支店長代理も記憶にないと言うのである。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など