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HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-59 Vol.59 原渕 勝仁さん

帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-59

VOL.59
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-59

 

 平沢逮捕の前にもこの「松井名刺」の捜査から逮捕された男がいた。それがDDT散布業者の御子柴兼男という水戸在住の男で、取調べの段階で平沢同様に犯行を自供までしている。岐阜県稲葉郡里野村の出身で、岐阜農林、同師範を卒業して小学校の教師、東京鉄道教習所教師などをしていたが、このときは台東区下車坂でDDT散布器具の販売業を営んでいた。販売拡張のため日本各地を訪れていたとき、昭和22年7月に宮城県庁で松井茂と名刺交換している。平沢が逮捕されたのは昭和23年8月21日だが、それよりも前の7月17日に御子柴は逮捕され、自供までしているのだ。

 当時、御子柴は茨城県平磯町の町政改革の急先鋒だったことから反対派が密告して逮捕されたといわれている。逮捕容疑は国民医療法違反の容疑。所謂、別件逮捕である。しかし、犯行を自供したものの自宅を家宅捜査したらなんと御子柴が松井と交換した名刺が出てきたのだ。昭和22年10月14日に安田銀行荏原支店で犯人は「松井名刺」を銀行に残して逃走している。真犯人が「松井名刺」を二枚以上持っているはずはないわけだから、自宅に「松井名刺」があったということは御子柴の無実が証明されたということで、ならばあの自供は何だったのかということになる。いかに警察・検察の取調べにおける自供というものが不確かなものであるかが図らずも証明されたようなエピソードであるが、この自供の問題点(不確かさ)に関しては、本質からずれてしまうのでこれくらいでとどめておく。

 それよりもこの御子柴の無実が証明されたように平沢が「松井名刺」を持っていれば、平沢の無実が証明されたわけである。しかし、平沢は「松井名刺」を持っていなかった。当然、なぜ「松井名刺」を持っていないのか警察・検察で追求される。犯行に使ったから持っていないのだろうと取調官に疑われたわけだ。このとき、平沢は苦し紛れにこんな言い訳をしている。

「松井名刺」は普段から財布に入れて持ち歩いていたが三河島でスリに遭って財布ごと紛失したと。単なる口からでまかせの嘘のように聞こえるが、捜査員が調べてみると、確かにその日、平沢は三河島の派出所に被害届けを出していたことが判明した。財布を掏られたことは嘘ではなかったといった印象を受けるのだが、そもそも平沢がなんのために三河島に来ていたのかを知ると、この財布を掏られたという彼の言ったことが本当だったか少し怪しくなるのである。なんと、この日、平沢は知人に借金を返す目的で三河島に来ていたのである。この「財布を掏られた」というのは借金が返せなくなったことの言い訳に平沢がとっさに思いついたことではなかったのか、と。

 何事も疑えばきりのないことで、こんなことを〝救う会〟で発言しようものならもう出入り禁止になりかねないが、わたしは平沢死刑囚の裁判での〝無罪〟を希求しているのではなく、平沢死刑囚の〝無実〟、もっと言えば、ことの〝真実〟を求めているわけで、平沢に都合の悪いことを見ないようにしていたのでは到底、〝真実〟にたどり着けるわけがない。だから平沢にとって不利なことでも徹底的に追求して納得したいのである。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など