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HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-56 Vol.56 原渕 勝仁さん

帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-56

VOL.56
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-56

 

 立教の正門を入ると、あの煉瓦造りの本館が目に飛び込んでくる。モリス館とも一号館とも呼ばれる建物だ。もともと立教はアメリカの宣教師によって聖書と英語を教える私塾としていまの築地の明石町に設立された。創立が1974年(明治7年)で、わたしが立教に入学したのが1975年。創立100周年が前年に終わって、わたしは101年目の新入生ということか。

 しかし、その頃の立教は早稲田・慶応に次ぐ東京の有名大学であったのが、逆風が吹き荒れていた。1973年に発生した「大場事件」である。立教の文学部の大場啓仁(ひろよし)助教授が教え子の大学院生を不倫の末に殺害。その大場助教授は家族で一家心中してしまうという痛ましいというか、地位も名誉もある大学の助教授の身勝手な犯行に世間の批判が集中していたのだ。のちに青学でも教授のセクハラ問題が事件に発展しているが、イメージのよさが売りの立教大学にとって、このスキャンダラスな殺人事件はとんでもないダメージをもたらしたようだった。

 わたしが入学した頃の立教はスポーツ入学も廃止していて、とにかく、キャンパスに活気がなかったように思う。大学の設備も当時、貧弱で、サークル活動に使う部室などもキャンパスの開いたスペースにバラックのような建物が雑然と並んでいて、けっしておしゃれな立教のイメージとはほど遠いものであった。

 あるとき、ゼミの打ち上げをそういった建物でやることになった。平沢が供述で犯行当時に歩いたという裏通りに近い場所であったと記憶する。大学のキャンバス内で、お酒を持ち寄っての飲み会。学生のこと大きな声をあげて騒いだのだろう。フェンスの向こう側の民家から「うるさい!」「静かにしろ!」と怒鳴られた。つまり、それほど立教のキャンパスと民家とは密接していて、その裏通りは狭く、確かに「土地鑑」のあるものでないと通らない道ではある。犯行時、恐らく、平沢はその道を通らなかったと思うが、自宅に戻るとき、池袋に住む友人・知人を訪ねるときなど、頻繁のこの道を使っていたのはそうなのだろうと思う。

 2008年。武彦さんらとくだんの道を歩いた。立教のキャンパスに植えられた巨木の葉っぱなどが裏道の上に覆いかぶさるようで、昼間でも薄暗い道である。当時は舗装もされてないだろうし、雪の降った直後のこと。どろどろのぬかるんだ道を犯行時間のぎりぎりに急いで歩いたのだとしたらさぞ歩きづらかったであろう。

 立教の女子寮がある。ミッチェル館。いまでは使われていないが、事件当時あったかどうか。その向こうに立教小学校。でもそっちには行かずに山手通りに抜けて行く。信号があって、横断歩道を渡ると、そこから坂の下に帝銀椎名町支店のあったあたりが目視できた。そのちょっと先が西武池袋線椎名町駅である。しかし、平沢は供述では延々と遠回りをして相田方の井戸を確認して犯行現場に向かったことに。実際に現場を歩いてみて確実に言えることは少なくとも平沢のその供述は不自然であるということ。単なる寄り道というレベルではない、なんらかの意図がない限りありえない行動である。歩いたみんなで帝銀の跡地の前に立ってみた。そこは比較的造りのしっかりとした堅牢なマンションになっていた。ふと住んでいる人は事件のことを知っているのかなと聞いてみたい衝動に駆られたものである。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など