コラム 帝銀事件とは何だったのか-51 Vol.51 原渕 勝仁さん | GHQ.club

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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-51

VOL.51
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-51

 

 平沢は事件発生から241日経った8月21日に逮捕された。

 まずは、逮捕に貢献した居木井警部補が23日に、続いて24日は峰岸警部補が尋問した。そして、25日に東京地検にまわされる。この日に平沢は手首をペンで突き刺し、その血で壁に「わたしは無実だ」と書いて自殺を試みている。平沢は9月27日に自白するまで都合3回自殺未遂を図っているが、その第一回がこのときであった。

 このとき尋問を担当したのは帝銀事件でたびたび名前の登場する高木一検事。「お前の芸術的生命をどうにか残してやりたいと考えているのだが、もう一度、清純な心にたちもどって絵筆をとってみたいと思わないか」と、9月20日の尋問で高木検事に言われた平沢は「法隆寺の壁画を技法(テンペラ画)で表現したいというわたしの望みも九分九厘までできかけ、ここで死ぬのは残念です。なにとぞ〝龍〟に会わせてください。〝龍〟に会って、後事を託して、そしたら一切のことを申し上げます」と答える。

 この〝龍〟というのが平沢の義弟(妻マサの実の弟)の風間龍のことである。翌9月21日に面会に訪れた龍に平沢は1万円詐欺について反省の言葉を伝え、次に検事に明日、介添つきで告白させてくださいといい、自白することを匂わせている。

 しかし、その翌日。平沢は約束どおりに面会に訪れた義弟の目の前で二度目の自殺未遂を図っている。「龍ちゃん、あることはある。ないことはない。わたしは帝銀犯人ではない」と、取調室のドアに自ら頭を打ち付けて自殺を図っているのである。このくだりは熊井啓監督の映画『帝銀事件・死刑囚』のなかでもしっかりと描かれている。

 このように義弟の風間龍に平沢がかなりの信頼を置いていたことは、わたしは当初から気になっていた。いや、それは風間龍が事件に関係しているということではなく、風間は事件のあった椎名町に住んでいたとかで疑われたことはあったが事件とはまったく関係はなく、平沢の家族・縁者のひとりに過ぎないのだが、いったいどういう人物だったのか。

 あの静子を撮影したビデオのなかに龍について触れた部分があった。武彦さんからは確か、神奈川にある有名な私立大学の教授をしていたと聞いていた。わたしもそうだが、学歴についての話が好きな静子はビデオのなかで「風間の叔父は東洋大学出身で、あと明治大学(大学院?)を出て……」と、東京の有名な大学の名前が列挙して話されている。恐らく、風間龍はこれらの大学を優秀な成績で出て、何かの研究者として私立大学の教授にまでなったのであろう。

 あるとき、わたしは武彦さんに風間龍氏がどんな顔をしていたのか興味本位ではあるが、聞いてみたことがある。「あれ、原渕さん、平沢の裁判の映像を見たことない? あのなかに映っているよ」と。確かに裁判の模様は記録映画で何度もわたしは目にしている。被告席に立った平沢が涙ながらに「あの犯行をわたしはやっておりません」と無実を訴えるシーンが映像に映し出されている。

 そこに前々からわたしは不思議に思っていたのだが、戦前から活躍する映画俳優の江川宇礼雄にそっくりな人物が最前席に座っていたのだ。古い日本映画が好きだったわたしは、てっきりそれは社会意識の高い戦前の舞台俳優の江川宇礼雄だと勝手に思い込んでいたのだ。

 なんと、それが(本当にそうだという確信はないが)風間龍氏の姿であった。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など