コラム 帝銀事件とは何だったのか-50 Vol.50 原渕 勝仁さん | GHQ.club

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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-50

VOL.50
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-50

 

 あの静子を撮影したビデオ・テープのことは実は気にはなっていたが、武彦氏に見せられたとき、ちらっと数分間、見ただけで詳しくは知るすべもなかった。そして、それは武彦氏の死とともに消え去る運命のものだったのかもしれない。

 しかし、わたしは武彦氏の遺品のなかから、その貴重な映像を見つけ出してしまったのである。そこには、平沢家の家族のこと、とくに子どもたちがその後どういった人生を歩んだのかが、断片的ではあったが長女・静子の口から語られていたのである。

 ビデオのなかで、父親の養子になってくれた武彦氏に親しみを込めて「いま、いくつになったの?」と静子が聞いている。武彦氏は37歳と答えている。彼は1959年生まれであるからざっと計算すると、このビデオが撮影された時期が推測できる。1996年ごろ、ということになる。既に20年の歳月が経っている。

 静子は大正4年・1915年生まれであるからこのとき81歳くらいか。目も鼻も口も比較的大振りな感じで、若い頃は華やかな顔の美人であったことが想像された。しかし、頭髪は何かとんでもない悲劇を経験したかのように燃えつきて灰になったように真っ白なのだ。ビデオのなかで静子は40歳の頃から自分は白髪で、60歳くらいまでは染めていたがいまはそのままにしていると話している。テレビの番組であれば、随所にナレーションが入って、静子の話を解説でもしてくれるのだろうが、とにかく、話はすべてが断片的で、色んな固有名詞が出てくるのだが、わたしの知識では80%ほどしか理解できていない。

 大学のキャンパスのような場所を歩いている。そこは静子の母校とのこと。巣鴨の近くにあるミッション系の女学校の固有名詞。失礼ながら有名な学校ではない。それもあってか静子はこんな風に少し自慢げに「青学も立教女学院も合格したけど、家に近いので」みたいなことを話している。わたしも自分が立教大学の出身であることからよく学歴の話などを人前でして顰蹙をかったりするのだが、静子もそういう自慢話が好きらしく、自分の息子は中学から青学で上場企業に就職したとか、兄弟は、男は(長男の達也のことか二男の瞭のことかは判然としないが)立教出身で、――平沢死刑囚の息子がわたしと同じ立教出身とは驚きであったが――娘の夫は大企業の重役であるなどと、武彦氏に自慢げに話している。自分の人生は決して、どん底ばかりではなく、いや寧ろ、一般の人達よりも上の人生を自分は歩んで来たと。恐らく、こんなことは他人には真顔では言えないこと。養子とはいえ、自分たちの父親の子どもになってくれた身内の人間だからささやかな自慢話もためらいなくできたのではないのか。そんな気がする。

 のちに平沢とは協議離婚をする妻のマサであるが、救う会の森川家にも出入りしていて、一緒に旅行に行ったりもしていたことが武彦氏によって語られていた。昭和54年・1979年2月11日に85歳で亡くなるのだが、静子の思い出には「あの人は死ぬまで着物でいた」と。死ぬまで着物でいたという、この静子の表現に、死刑囚の妻でありながらも夫の無実を信じて凛としてその後の人生を生きた、妻・マサの真実の姿をわたしは感じた。

 

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  • 『若松孝二と赤軍 レッド・アーミー』
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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など