コラム 帝銀事件とは何だったのか-45 Vol.45 原渕 勝仁さん | GHQ.club

GHQ CLUB. あの日あなたは何をしていましたか? あなたにとってGHQとは?

HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-45 Vol.45 原渕 勝仁さん

帝銀事件とは何だったのか

GHQ
MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-45

VOL.45
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

article

 

オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-45

 

 若松監督が交通事故に遭遇した直後、新聞などの報道では大した怪我ではない、と報じられていた。しかし、緘口令が敷かれていて、不安になって、若松監督とは盟友とでもいうべき足立正生監督に、わたしは心配で電話を入れた。

 緘口令が敷かれていたために電話口で足立監督は詳しいことはいっさい話さなかったのだが、しきりと「しょうがない」「しょうがない」を連発していた。そのときは、事故に遭ったことが不運だったといっていたのかと思っていたが、足立監督はそのとき、盟友の死を、それは逃れられない事実として受け入れざるを得なかったことを覚悟していたわけだ。

 足立監督は日大の映画学科の学生時代から映画『鎖陰』などの作品で注目され、若松監督の初期の名作のほとんどで、脚本を担当するなど、その芸術性と思想性が高く評価されていた。さらに政治性というか〝革命〟にも深くコミット。そして、若松監督をも巻き込んで行くのだが、そのきっかけとなったのがドキュメンタリー映画の『赤軍=PFLP 世界戦争宣言』であった。直後の1974年には、足立監督はアラブに渡り、重信房子の日本赤軍に帯同してパレスチナ解放のための本物の赤軍兵士、〝革命家〟になるのである。ベイルート郊外のベカー高原を拠点にPFLPなどと活動をともにしていた過程で、多くの仲間の死を体験してきた足立監督にとって、あの「しょうがない」は身に染み付いた諦観の言葉であったのであろう。

 まだ、脚本などには至っていなかったのだが、出演者など、七三一部隊の若松映画における構想をわたしは若松監督から聞かされていた。ちょうど、その頃、監督は中上健次の『千年の愉楽』を撮ったばかりで、その主役を務めた高良健吾を主役の解剖係りの兵士役に考えていて、その妻役はオーディションで、また、脇役などは若松映画の常連に頼もうとしていた。七三一部隊の悪名高い隊長の石井四郎には俳優の佐野史郎がいいとか。いろいろ話していた。なかでも重要な役で、これは実在の人物ではないのだが、中国人の女性マルタがロ号棟の監獄のなかで赤ん坊を産むシーンがあるが、この役は監督の映画『キャタピラー』で主役を務めた寺島しのぶにやってもらおうなどと話していたのだ。しかも、寺島しのぶがちょうど赤ん坊を出産する時期と重なっていたことから本当の出産シーンを撮影できないかと申し込んで断られたよ、とまで楽しそうに色んな構想を監督は話していた。タイトルもどちらも戦争によって人生が翻弄された人間が主人公なので『キャタピラー2』がいいとも言っていた。それはあまりにも現実的な構想で、実現性も高く、かなり面白い、どう考えても話題性のある映画になるなと。その映画にわたし自身が深く関わることになるわけだからもう天にも昇るほどの高揚感を感じていた。しかし、それも監督の死とともに文字通り〝泡〟のごとく消えてしまったのである。

 ちなみに山本薩夫監督が構想した七三一部隊の映画の配役は、脚本を担当した下里正樹氏によると、主人公を仲代達矢。その妻を吉永小百合。そして、中国人の女マルタ役には栗原小巻が決まっていた。

 

  • (クリックすると拡大表示されます)
  • 【原渕勝仁の著書】
  • 『若松孝二と赤軍 レッド・アーミー』
  • 情況新書011/世界書院・発行
    定価1200円+税

 

img_column_002_02
プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など