HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-43 Vol.43 原渕 勝仁さん
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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-43
- VOL.43
- 原渕 勝仁さん
占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。
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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-43
そもそも山本薩夫監督や若松孝二監督が作ろうとした七三一部隊の映画とはどういった内容なのか。完成されたシナリオを読んだわけではないが、原作者、というか〝原案者〟の下里正樹氏から、かなり詳しく、わたしは内容を聞かされていた。
主役は実在の七三一部隊の隊員とその妻。下里氏はこれまでに、というか『悪魔の飽食』執筆当時に集中して100人以上の関係者にインタビューしている。その過程で知り得たエピソードのなかにあって、これはドラマになると感じたある夫婦のものがたりである。夫は職業軍人として将来を嘱望された人物である。近衛師団に所属していた。しかし、あのニ・二六事件に連座して予備役にまわされていた。それが一念発起。結婚を機に軍属として満州に渡ることになる。そして、所属することになるのがハルピンにあった関東軍の防疫給水部。そう、七三一部隊である。新婚の妻も同道していた。二人はハルピンから南に20キロの平房にある七三一の隊員宿舎で生活を始める。最初は気づかなかったが、部隊から宿舎に戻って来る夫の異変に新妻は悩まされる。新婚であるから当然、夫婦の夜の営みも大切な時間である。しかし、夫の体から発する耐え難いにおいに妻は苦しめられる。けもののようなにおい。最初は軍馬の世話でもさせられているのかと。臭くて、臭くて仕方がない。それは、のちにわかることだが、夫は七三一部隊の解剖班にまわされて、日々、マルタ(中国人およびロシア人の捕虜)の生体解剖をさせられていたのである。病原菌に感染させたマルタを仮死状態で解剖する。心臓は動いているから体にメスを入れるととんでもない勢いで血液が飛び散るのだと。これは下里氏が隊員からじかに聞いた話である。その血液が自分の体に触れないようにあらかじめ防護服を着て、厳重に防止する。足にはゴム長靴だが上から脚絆でぐるぐる巻きにしている。防水用の合羽をはおり、目にはゴッグルを付けている。
このくだりをわたしが若松監督に話したとき、「原渕君、それって、福島原発の、放射能をよける防護服にそっくりじゃないか」と、監督が興奮して声をあげたことを、わたしは昨日のことのように鮮明に記憶している。場所は千駄ヶ谷の若松プロの二階にある事務所。
この直前に、これは監督からじかに聞いた話ではあるが、どこまでが事実か不明の話なので実名は伏せておくが、日本のあるメジャーな映画会社からの依頼で、若松監督は原爆をテーマにした映画の監督を要請されていた。しかし、監督は映画のなかに福島原発のことを入れたいと話したことから製作サイドと意見の違いが埋められず監督を断ったばかりであったのだ。
この監督を断った直後に監督からわたしの携帯に電話が入り、監督はわたしにこう言ったのも、これも昨日のことのように覚えている。「原渕君、俺、あの映画、降りたから。原渕君がこないだ話していたあの七三一部隊の映画。あれ、やろうぜ」。それで、わたしは後日、改めて、下里正樹氏をともなって、千駄ヶ谷の若松プロを訪問。そこで、より詳しく、若松監督の考える映画のプロットを三人で練り上げて行くのである。監督は全編〝密室劇〟にこだわっていた。
- プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など