コラム 帝銀事件とは何だったのか-34 Vol.34 原渕 勝仁さん | GHQ.club

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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-34

VOL.34
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-34

 

 わたしが大学生の頃、映画好きだったこともあるが、この熊井啓監督の芸術性の高い作品はどれもが素晴らしく、リスペクトの度合いは半端なものではなかった。とくに感動したのは『サンダカン八番娼館・望郷』。からゆきさんをテーマにした作品で、若い頃を高橋洋子が演じ、老女になってからを田中絹代がやっていた。遠い南洋の外国の島に娼婦として売られて行った主人公の哀れさに心がしめつけられる思いがした。加藤剛と栗原小巻の『忍ぶ川』なども名作中の名作である。

 そんな世界的な名監督の熊井啓監督のデビュー作が実は『帝銀事件・死刑囚』だということは意外と知られていない。1964(昭和39)年に日活の作品として製作・公開されている。監督は1930(昭和5)年生まれであるから、若く、34歳にして監督デビューを果たし、その第一作に選んだテーマが帝銀事件だったということになる。監督は翌年にも『日本列島』といって、下山事件であるとか杉並のBOACスチュワーデス殺人事件をテーマにして作品を立て続けに監督していることから、よほど戦後のGHQ時代の不可解な謎の事件に興味があったものと思われる。

 勿論、映画は監督ひとりで作れるものでもなく、ましてや新人監督なのだからプロデューサーや映画会社の意向があってのこととは思うが、のちに有名になってからも松本サリン事件とか九州大学医学部の生体解剖事件なども映画化(『海と毒薬』)していることから考えて、熊井啓監督のなかにこういった人間の悪魔性をテーマにした実話に対して、深い洞察と限りない好奇心があることは間違いのないことのように思われる。

 監督が、また、日活がこの帝銀事件を映画化しようと考えたのは、明らかに当時、平沢死刑囚が仙台の宮城拘置支所に移送され、死刑執行間近の報道がなされた時期に重なっていることと関係している。ちょうど、この頃、作家の森川哲郎氏が奔走して「平沢貞通氏を救う会」が結成されている。映画化にあたり、監督はこの事件に関して、調べられる限り調べている。そして、〝救う会〟にも接触して、そこからかなりの情報を得たこともエッセイのなかで告白している。

 その最大のものは、警視庁の藤田刑事部長がGHQに旧・軍関係者(とくに731部隊員)の捜査から手を引くように圧力をかけられるくだり。これは何気なく映画のなかにも登場しているが新聞記者で言うところのスクープ中のスクープで、それが100年後も残る映画のなかで描けているのも〝救う会〟の助言があってのこと。というか、〝救う会〟からすれば、こうやって映画で採り上げてもらうことが、平沢の死刑を回避する秘策のひとつでもあったわけなのだ。

 この藤田刑事部長の件は、ウィリアム・トリプレットが著書『帝銀事件の真実』(1987年刊)のなかで、GHQの公安課(PSD)の主任警察行政官ヘンリー・イートンを名指しで告発し、そのときの通訳をしたユージン・ハットリ元中尉にまで取材して明らかにしているが、熊井啓監督の映画のなかにすでにしっかりと描かれていたのである。のちに監督は、帝銀事件の謎はほぼ、あの映画のなかで描ききっていると。いまもって、あれ以上の真実は出ていないとまで豪語しているのである。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など