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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-21

VOL.21

原渕 勝仁さん

オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-21

　Iさんの自宅はすぐにわかった。小田急線の、その駅を北口に出て右側にちょっと行くと、駅名にもなっている有名な大学がある。そっちには行かず、反対方面に歩いくとバス通りにぶつかる。Iさんには手書きの地図を書いてもらっていた。木蓮の大木が目印だと。あと、ある有名な証券会社の支店店舗に貸してあるとのことで、どんぴしゃり、これだけの情報があれば、間違えようがない。営業所の建物と聞くと、無機質なビルをイメージするが、高級住宅街に相応しい豪邸をそのまま店舗に使っているといった感じで、いかめしい証券会社の建物としては少し違和感を感じたが、しっかりとIさんの自宅の場所を確認した。

　Iさんが話していた入り口が少し入りづらい庭はいまは駐車場になっているらしかった。昭和30年代からは年月も経っている。いまとなっては、Iさんがわたしに言っていた木蓮の大木だけが当時を偲ばせるもののようであった。Iさんが帝銀事件の真犯人と考えている歯科医のOの歯科医院があった場所は、その証券会社の場所から駅に戻る感じで、つまり、小田急線の駅とIさんの自宅のちょうど中間くらいにある路地の一角に存在したと。確かに、あの高級住宅街の駅近くにありながら、そこだけ下町の風情を残した路地が何本かあって、おそらく地価はかなり高いはずなのに何とも庶民的な長屋のような建物が並んでいる。いまは本人も亡くなり、歯科医院も随分も前に廃業しているとのことで、まさか当時の歯科医院があるとは想像もしていなかったが、事件のあった昭和20年代、30年代にタイムトリップしたような不思議な感覚に囚われていた。

　しかし、3本ほどある路地を何度も行ったり来たりして、Oの歯科医院の跡を探したが、どうしても見つけることはできなかった。もしかして、Oの親族の誰かがいまもそこにいて、カーテンの窓越しに密かにこちらを伺っている……そんな不気味な想像に背筋がぞくぞくしたことを覚えている。

　Oには妻がいたかどうか不明だが、少なくとも子どもはいなかったことはわかっている。ただ、妹がいたとのことで、その血族、つまり、甥とか姪が生きている可能性があるので、Oの実名を本に書いたり、テレビで公表したりすることは控えているともIさんは語っていた。わたしには、実名も生年月日（1905年生まれ）も出身大学も教えてくれているし、40歳当時の顔写真まで見せてくれている。

　結局、このときはOの歯科医院の場所を特定することはできなかったが、当時の番地はわかっている。焦る必要もないと、いまもそれ以上の調査はしていない。Oの属性に関しては、これはすべてIさんから聞いた話だが、父親が警視庁の刑事であったということ。歯科専門大学に入学する前は早稲田中学に通っていたことなどが判明している。戦時中は、どこで何をしていたかは謎。しかし、戦後の一時期、新潟県湯沢町に足跡を残している。

　続いて、わたしはオルタス・ジャパンのプロデューサーとそこに向かった。2011年2月のことである。

プロフィール：原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴：1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作／TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入！よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など