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HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-19 Vol.19 原渕 勝仁さん

帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-19

VOL.19
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-19

 

 そもそも、なぜ、一般人であるIさんが帝銀事件の真犯人探しにのめり込むことになったのか。

 彼がペンネーム〝佐伯省〟の名前で書いた著書『疑惑α』にも、それについて書かれているが、わたしはもっと詳しく直に話を聞いている。これは、わたしが帝銀事件を映画化する計画もあって、役者を使ったドラマで再現したいほどリアリティのある証言だ。Iさんが歯科医のOが帝銀事件の真犯人と思う、いや、それはのちに確信を持った、というエピソードとして、わたしに語ったのがこの話である。

 それは日にちもほぼ特定することができる。昭和30年4月6日か7日のこと。小田急線沿線のある町に建つ大きなお屋敷に暮らしていたIさんの自宅に突然、歯科医のOが現れたという。気づくと、自宅の庭にOが立っていたそうだ。Iさんの自宅は、特に庭に入る入り口はわかりにくい場所にあって、知らない人は容易に入って来られないのに、よく入って来られたなと、そのときそう思ったそうだ。

 歯科医のOは、歩いても数分とかからない駅の近くで歯医者を経営している。Iさんは、そのとき縁側に腰掛けて新聞を読んでいた。帝銀事件の最高裁判決が確定。平沢貞通被告に死刑が確定したことを報じる新聞であった。調べてみると、最高裁判決は昭和30年4月6日に出ている。恐らく、翌日の朝刊にそのニュースが大々的に報じられたであろうから、Iさんは歯科医Oが我が家を訪問したのは4月7日だったのであろうと。人間の記憶など、実に曖昧なもので、日にちとかはもしかして違っているかもしれないが、それは特に問題の本質ではない。それよりも、帝銀事件の話をしたときの歯科医Oの狼狽ぶりがIさんにとって、その後のOの不審な行動ともあいまってOが真犯人だとの確信を強めているのである。

 庭に立つOに新聞から顔をあげたIさんが「帝銀の平沢が死刑になるそうですね」と話しかけたときのOの異様な狼狽ぶりがIさんは忘れられないと。まぁお茶でも、と、自宅に上がってもらったそうだ。奥の間に続く廊下があって、当時、小学校に通う息子の描いた絵が飾ってあった。それを歯科医Oがいたく興味深げに見ていたので話を聞くと、自分も絵を描いている……しかも、日本水彩画会に所属していると自慢げに話したのだと。その日からIさんの身に不可解なことが起こるようになった。

1916年11月生まれのIさんは、当時38歳。働き盛りの年齢である。早稲田大学の理工学部を卒業したIさんは光学系の一流企業に勤めていたが体を壊し、当時は家業の手伝いをしていた。神奈川に大きな工場を親が経営していて、その資産で生活していたようだった。だからお金と時間はあった。それで独自に帝銀事件の真犯人探しを90何歳になるまで続けたられたのかもしれない、と、苦笑気味に話してくれた。

 しかし、ここまで執念を燃やすのは尋常なことではない。それは歯科医Oが自宅を訪問して、3年ほど発った昭和33年の暮れのこと。年相応に歯の痛みを覚えたIさんは、自宅から近いし、顔見知りのOの歯医者に駆け込んだ。そして、奥歯の治療をしてもらった。奥歯に何か詰め物をされて、自宅に戻って来た。しかし、その日からIさんはひどい胸焼けを感じ、具合が悪く、吐き気を覚えるようになったのである。

 なんと、Iさんは歯科医のOに毒を盛られていたのである。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など