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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-13

VOL.13

原渕 勝仁さん

オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-13

　これまた、わたしが暮らす小田急線沿線のお話で恐縮だが、経堂から成城学園方面に下り、多摩川は越えないある駅に私はある人物を訪ねていた。2009年10月21日のことである。駅からは、ゆっくり歩いても5分とはかからない。ある介護施設にそのお目当ての人物は奥さんと二人で入っていた。二人とも、かなりの高齢である。資産家で、自宅はある大きな、というか、日本で最も有名な某・証券会社に支店社屋として貸しているらしいので、さすがにそれなりに高級な介護施設に二部屋ぶち抜きで夫婦で暮らしていた。

　その日のことは鮮明に記憶している。一緒に暮らす奥さんはすでにボケが進行しているやに見受けられたが、そのお目当ての本人は、年齢は当時92歳（1916年生まれ）と聞いたが、矍鑠としていた。高齢ではあっても、もともと知的レベルが高く、しかも誠実な人柄が見た目から感じられた。

　それがあのペンネーム〝佐伯省〟こと、市井の帝銀事件研究家のIさんであった。彼にはどうしても会いたかった。だって、彼こそが帝銀事件の真犯人に最も迫った人物であると、わたしが考える人物であったからだ。事前にわたしは彼の著作『疑惑α 帝銀事件 不思議な歯医者』を熟読していた。講談社出版サービスセンターという出版社から出ている本だが、聞くと、自費出版で出したものだという。その前に和多田進という作家が同じ内容のものを出版しているが、その内容に納得がいかず自分で書き直したとのこと。これまで、わたしがここに何度も登場させた水彩画家で歯科医のOのことがかなり詳しく調べられ、推理小説以上に面白い読み物になっていた。

　これがもし本当に真実ならば、昭和史最大の謎が解明されたことになり、とんでもないスクープであるわけだが、〝救う会〟の誰もが、この人物とこの本の存在を完全に無視している。この本のことに何かのことで、わたしが話そうものなら武彦さんが親しかったわたしに対して、やんわりと脅しに近い、こんな言い方をした。「原渕さん、Iさんに興味があるみたいだけど、もし、これをテレビにしたらあなたはテレビ界から抹殺されますよ」と。実は〝救う会〟のメンバーの中にも、Iさんと近しい関係者がいるのだが、その人も弁護団会議に参加しているが、Iさんのことは武彦さんの前でいっさい口にしていてなかった。

　あるとき、武彦さんはこうも言った。「真犯人説を追いかけるのは、もう一つの冤罪を生む」とも。確かに、面白がってOが真犯人だと、確たる証拠もなく、騒ぎ立てれば、それはそもそも人権侵害で、訴えられれば、わたしのジャーナリストとしてのかなりの部分が信用性を失い、テレビでもう二度と、仕事ができなくなるかもしれない。

　確かにそうなのだが、少しでも可能性があるのなら、もしかして真実に迫れるチャンスがあるのならどんなことをしても迫りたい。わたしの本音はそれである。でも、〝救う会〟に出入りしていて、武彦さんの親しい友人でもあるわたしが武彦さんを裏切るようなことはおおっぴらにはできないのも仕方のないことであった。

　そういった状況の中で、武彦さんには内緒ではあったが、〝救う会〟の活動の一環として、わたしが代表してIさんに会うことになったのである。

プロフィール：原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴：1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作／TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入！よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など