HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-1 Vol.1 原渕 勝仁さん
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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-1
- VOL.1
- 原渕 勝仁さん
占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。
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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-1
なぜ、この事件にここまでかかわることになったのか。自分でも不思議でならない。大学を出て、三〇年以上、テレビの仕事をして来た。職業欄には「放送作家」と書いているが、ここ数年は自分でビデオ・カメラを回して、いろんな取材をしてそれを番組にしていることもあって、「ビデオ・ジャーナリスト」と呼ばれることもある。
北朝鮮には九回入って、昨年は「よど号日本人村」のスクープを取った。映画監督の若松孝二氏(故人)と中東レバノンを取材中に一緒に身柄を拘束されたこともあった。執行猶予中の俳優・萩原健一氏に一年以上、密着して、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』で番組にした。
とくに意識して取捨選択したわけではないが、わたしが追いかけるテーマはつねに他人が避けて通るような激烈なものばかりであった。そして、気がつくと「帝銀事件」にどっぷりと首まで浸かっている自分自身がいた。
こんなにも激烈な事件はもしかしてないのかもしれない。一二人もの銀行関係者が保健所の職員を名乗る一人の男によって毒殺されている。奪われたお金はびっくりするほどの額ではない。男はGHQの職員であることを騙って、行員一六人全員に言葉巧みに毒薬を飲ませている。そのとき、自分も飲んで見せている。その手際のよさは到底、素人には見えなかった。わたしは、これまでこの帝銀事件を二度、テレビ番組にしている。一度は、その犯行現場を完璧に再現した。
事件が発生したのは一九四八年一月二六日。GHQの占領下のことである。路には降った雪が残っていて、さぞ寒かったことだろう。犯人は茶色の長靴を履いて、厚手の軍用コートを着ていた。腕には東京都衛生局の腕章を付けていて、「近くの相田さん方の井戸で赤痢が発生して」と実に的確なリアリティある話をして、全員を鮮やかに騙した。
事件から半年以上も経って、北海道・小樽の実家で帝銀事件の犯人として逮捕されたのが画家の平沢貞通であった。
帝銀事件をテーマに番組を作ったことからよく「犯人は本当に平沢だったの?」と聞かれる。平沢が犯人であるという決定的な物証はない。ただ、帝銀事件の三ケ月ほど前に発生した同じような銀行を舞台にした未遂事件で、犯人が残して行った名刺から「平沢貞通」に捜査は行き着いている。その所謂「松井名刺」をはじめとして、状況証拠として平沢はかなり怪しい人物ではある。
しかし、もう一度、言うが、取調べにおける自白以外に決定的な証拠はないのである。帝銀事件の犯人が支店長代理に渡した名刺も、自分が使った湯のみ茶碗も、証拠となるようなものはすべて持ち去っている。とにかく、この犯人は抜かりがない。プロ中のプロなのだ。
プロって何のプロだよ。言葉巧みに他人に毒薬を飲ませて、人事不省にして、その隙に犯行を行うプロ。そんなプロがいるのか。それがいるのである。
犯人が平沢か否か。わたしにはわからない。しかし、犯人は100%間違いなく、旧・軍関係者。中でも、戦前に日本の軍部が養成した「特務機関員」であると、わたしは確信している。
(つづく)
- プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など