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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-12

VOL.12

原渕 勝仁さん

オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-12

　戦時中は、高名な画家といえども、絵の具が手に入らなかった。無名の水彩画家などにはそれこそ、貴重な絵の具が回って来なかっただろうし、そもそも、日々の生活にも困窮していたのではないか。なかには赤紙による召集によって兵隊になった画家もいただろうし、生活のために満州くんだりまで出かけた画家もいたかもしれない。七三一部隊に軍属として入れば、兵隊にとられることもない。それに食料をはじめとして、家族の生活の面倒まで見てくれる。そういった仕事を誰か、大物の絵描きが斡旋したのではないか。それが平沢だったのか、当時の日本水彩画会のトップだった石井伯亭だったかは明らかではない。しかし、石井も平沢も、七三一部隊に仲間の水彩画家が何人も生活の面倒を見てもらっていることを知っていたのではないか。

　これはまったくの推測である。確たる証拠はない。そして、その20人からの水彩画家の中に、わたしが帝銀事件の真犯人ではないかと疑っているOがいたのではないか。ここまで書くと、これはもう推測の域を超えて、〝妄想〟であるが、わたしはそのような仮説を立てて、その証拠を捜し求めている。そして、以前も書いたが、Oはほぼ間違いなく、これはかなりの状況証拠が揃っているので〝妄想〟ではなく、中野学校か憲兵かは不明ながら「特務機関員」であった。そのOが水彩画家として、七三一部隊に存在したとなると。

　……ここで、もう一度、わたしが前に書いた文章を思い出して欲しい。水彩画家の七三一部隊のもと画家（それが先ほどの「はんこや」になったもと隊員のことであるが）が、20人からの水彩画家の中に帝銀事件の平沢に似た人物がいたと下里氏に話していることだ。そんなこと俄かには信じられないとも書いた。しかし、それは平沢貞通本人のことではなく、本当に平沢によく似た顔をしたOのことではなかったのか。それを確認したく、そのもと隊員を探したが見つからなかった。調べてみると、平沢とOは同じ水彩画会の会員で、恐らく、お互いに面識があったのは間違いのないことなのだが、取調べの過程ではどちらも知らないとシラを切っている。わたしは、実は、ある場所で、これはこのあと詳しく書くが、実際のOの写真を見ている。それをしっかりと、わたしのビデオ・カメラで接写までして残している。これがいつか何らかの決め手にならないかとの淡い期待を持って。……

　平沢は1892年生まれだが、Oは1905年の生まれ。平沢よりもひと回りも年下である。しかし、その端正で、少し老成したような顔立ちは、瓜二つとまでは言えないが、平沢に非常によく似ている。これはどこまで信用していい話なのか。

　あの帝銀事件で生き残った預金係の村田正子さんが、平沢の無実を信じる支援者に連れられて都内某所のOの歯医者を訪れ、Oが犯人かどうか首実検したそうなのだ。そんなことを本当にやっていたとしたら驚きであるが、支援者の言葉をどこまで信じてよいのか、村田正子さんは真犯人を目の前にして震えが止まらない様子だったと証言している。このことは、のちに村田さん本人が否定したという説もあって、いまとなっては確認の取り様のない不思議なエピソードとして、平沢支援者の人たちに伝えられている。

プロフィール：原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴：1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作／TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入！よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など