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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-68

VOL.68
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-68

 

 犯行時、犯人は計算の途中である、ある行員の机の上に置いてあった10数万円の現金しか奪っていない(額面1万数千円の小切手も奪っているが)。実は、そのとき銀行の金庫は開いたままの状態で、そこには30万円ほどの現金があった。なぜ、犯人はそれに手をつけなかったのか。周りでは自分が毒を盛った行員たちが血反吐を吐いてもがき苦しんでいる。なかに毒の効き目が悪くて、こっちに反撃してくるのがいるかもしれない。そもそも金庫に大金があるのを犯人は気づかなかったのかもしれないし、そこまで冷静でいられなかったのかもしれない。いや、そもそも犯人はお金が目的ではなかったのではないか。もっとほかに目的があったのではないか、などともっともらしく語る識者がいる。

 それはちょうど石井四郎ら七三一部隊員が人体実験のデータをアメリカに提供するかわりに戦犯免除をちらつかせている頃で、陸軍中野学校など戦前の特務機関員が自分の能力をGHQにアピールするためにデモンストレーションとして行った犯行ではないか、という説である。いまは故人であるが、推理作家の小林久三はこの説にそって小説を書いていた。

 確かに面白い説ではあるが、わたしは犯人はやはりお金が欲しくて犯行に及んだものと思っている。別に特務機関員としての能力をこんな形であらわさなくても登戸研究所の所員も含め多くの特務機関員が米軍側にリクルートされて、その持てる能力をいかんなく発揮して、アメリカのその後の謀略戦に協力している事実がある。わたしが帝銀の真犯人と目するOなども既に米軍側の人間になっている。いや待て、Oは米軍とのつながりが深いがゆえに自分の能力をより効果的に誇示するためにあの犯行に及んだのかもしれないな。しかし、その程度のこと、つまり、自分の就職活動のために16人もの罪もない行員に毒を飲ませるだろうか。

 それなら平沢が実行犯だとしたらどうなのか。わたしが金庫の30万円に犯人が手をつけなかった理由として、最近、ある知人から気になる指摘を受けている。つまり、銀行では、その日に客から受け取った現金は金庫にしまうとき、すべてのお札の番号を控えるのだと。これは本当なのか。犯人は銀行の業務にかなり詳しい人間であった。だから金庫の金には手をつけなかったのか。平沢は「日本堂事件」といって、銀行を舞台にした詐欺事件を起こしていて、本人もその犯行は認めている。しかし、平沢は銀行の業務に関して熟知していたのか。担当検事の高木は平沢には〝識鑑〟があったというが、それは具体的に何を指しているのかは実はかなり曖昧模糊としている。いまでは、わたしでも銀行の業務について、お客様対応は3時までで、そのあと、店舗のシャッターを閉めてその日の入金・出金の計算をしていることなど知っている。1円でも計算が合わないと家に帰してもらえないなどとも聞いている。帝銀の犯人はまさにそんな閉店直後の3時10分か20分頃に犯行に及んでいる。さらに本番の帝銀も未遂となった三菱銀行中井支店も、犯行が行われたのは月曜日。休み明けの月曜日が銀行業務において、何がどうなのか現時点でわたしには不明であるが、もしかしたら実際に銀行にお勤めの方に聞けばこの謎が解けるのかもしれない。

 

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  • 『若松孝二と赤軍 レッド・アーミー』
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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など