HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-65 Vol.65 原渕 勝仁さん
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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-65
- VOL.65
- 原渕 勝仁さん
占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。
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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-65
映写用の16ミリ・フィルムからどうやって映像を盗み取るのかも、朝日新聞の元・記者だった菅野(かんの)長吉さんは詳しくその手記に書いている。
わたしが理解した範囲で説明すると、まず、必要な1カットを決め、そこに感光フィルムを密着させて、ガラス板で上下から挟む。それを下からライターの火で約1秒間、炙る。用意した感光フィルムに必要な映像がしっかりとコピーされるのだそうなのだ。これが〝盗み複写〟のテクニック。朝日新聞の酒井カメラマンがこのテクニックをマスターしていて、小西六の淀橋工場で実行したわけだ。
あの時代の新聞記者や報道カメラマンの執念というか根性というか、いまこんなことをやろうものなら単なる企業コンプライアンスとかの問題じゃなくて、住居不法侵入とか窃盗罪に問われる恐れがある。
しかし、そもそもなぜ、こんな映像を、つまり、平沢に犯行時の犯人の服装をさせ、毒を飲ませるシーンを再現させた姿を動画で撮影したのか、ということだ。やらせたのは当時の担当主任検事の高木一である。恐らく、当時の法律で、また、いまでも犯人を現場に立ちあわせ、実況見分をやっているわけだからいまも、法律にのっとったことで違法ではないだろうが、わたしには検察側がそこまでしなければいけなかった裏に平沢を犯人とする決定打がいかになかったのかが透けて見えてくるのである。
事件から半年以上、経って平沢は逮捕されている。小樽から連行されている列車のなかにまで、帝銀及びほか2件の未遂事件の生き残りの行員を乗り込ませて、捜査官が所謂「面通し」を行っている。上野署に到着して取調べを受けている間も、警視庁に入ってからも、平沢のすぐ隣に立たせてまでして犯行の目撃者に平沢が犯人か否かを聞いているのである。これはどこまで数字的な正確性があるかは定かではないが、わたしが聞いている範囲だと、当初、目撃者のほとんどが確かに犯人に似ているが犯人かどうかは確信がないと答えていたというのである。あの平沢無実の急先鋒にのちになる帝銀の4人の生き残りの一人、村田正子さんに至っては当初から「犯人に似ている」「しかし、犯人とは別人」と明言しているのである。検察としては、この状況を何としても変える必要があった。誰しも人間の記憶というのは不確かなものであろう。あれほど明言までした村田さんにしても、例外ではない。しかも。事件発生から半年も経過している。犯人は短髪で、ごま塩頭であったが時が経てば髪の毛も伸びるだろうし、着ている服とかでも違えば人間の印象などというものは随分と違って見えるのもであろう。だからといって、わざわざ平沢に髪をごま塩頭にして、犯行時の犯人の格好をさせてそれを映画にすることにわたしははっきりとした根拠は提示できないが、なんとも納得できない違和感のようなものを感じてしまうのである。
この映画を関係者、特に犯行の目撃者に当然、見せたはずだが、それによってなのか、ほかの要素も加わっていたのか。裁判が進むにしたがって、目撃者の間で、自分が目撃した犯人は平沢に違いない。帝銀の生き残りの吉田支店長代理に至っては、法廷で平沢を指差して「わたしが目撃した犯人はこの男に間違いなと」とまで言い出すのである。
- プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など