コラム 帝銀事件とは何だったのか-55 Vol.55 原渕 勝仁さん | GHQ.club

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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-55

VOL.55
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-55

 

 わたしが立教の学生だった頃の池袋はいまとは随分と違っていた。駅の東口に西武があって、西口に東武があることが、つまり東西が逆転していることが特に面白くもないのだが、池袋の話のとき必ず話しの種にされた。だからどうということもないのだが、それだけ池袋は駅と駅に隣接する百貨店だけが有名な町だった。

 そうこうするうちに東口を少し行った場所にいまや池袋のランドマークとも言うべき超高層の「サンシャイン60」が建設された。あのA級戦犯が収監されていたことで知られる巣鴨プリズンの跡地である。

 わたしが通う立教大学は西口にあって、当時はとにかく駅前の山手通りに抜ける大通りはずーっと工事中であった。それは地下鉄の有楽町線が池袋から埼玉の和光市に延長される工事で、だから当時は要町の駅は存在していなかった。西武池袋線の東長崎駅近くに下宿していたのだが、大学を中途半端な状態でテレビの製作会社に入社した頃(わたしの人生でサラリーマン生活を経験したのはこの3年間だけであった)は、その要町から自動車が一台ぎりぎり通れるような細い道を何度も曲がった奥まった「豊島区高松」に暮らしていた。

 一般住宅を改装して、二階に三部屋6畳間があって、そこがアパートのようになっていた。それぞれのドアの横に小さな煮炊きをするスペースがあって、階段の向こう側に蛇口が三つか四つ並ぶ洗面所。トイレは共同であった。わたしの隣には大東文化大学の先生が住んでいたが、4年くらいここにいたが、一度も挨拶も交わしたこともなかった。薄い壁を通してほとんど何も音もせず、それこそ何かのセクトのアジトだったのかも(そんなことないか)。

 会社勤めを終えて地下鉄で池袋まで帰って来ると、当時はまだ要町まで地下鉄は通ってないので西口からバスで通っていた。それが「中丸町循環」。立教の正門のある狭い自動車道路。地元ではこれを「立教通り」と呼んでいるが、そこを抜けて山手通りを右折する。左側には、あのロッキード事件で名を馳せた小佐野賢治の国際興業の巨大なバスの駐機場がある。道路よりのビルはいまは移転しているが、当時の中核派の本部「前進社」が不法占拠していた。わたしはバスの窓から見上げるようにしてその「前進社」ビルの屋上に立つピケを眺めたりしていたのも遠い思い出だ。

 要町の交差点をそのまままっすぐ川越街道までバスは走る。そしてその川越街道を左折する。曲がってすぐの場所が板橋区中丸町である。帝銀事件の死刑囚・平沢貞通が1925(大正14)年に狂犬病の予防薬を飲んで昏倒して入院したとき、住んでいたのがなんとこの中丸町であったのだ。わたしは大学生の頃は帝銀・椎名町支店の近くを通って学校に通っていて、働くようになってからは平沢の自宅があった近くを毎日、バスで通り過ぎていたわけだ。ただ、通っていた大学が立教大学だったからの〝土地鑑〟に過ぎないが、のちのち自分がこうやって帝銀事件の研究をするのも縁のなせる業(わざ)なのか。「豊島区高松」のそのアパートを何年かぶりに訪問した。

 建物はそのまま残されていたが、所有者が変わっていた。ほそぼそとお針の仕事をして、恐らく家賃収入だけで暮らしていた未亡人と娘さん。いまの所有者に聞くと、千葉の生まれ故郷にこの家を売って帰ったとのこと。時の流れにしみじみとなった瞬間であった。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など