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HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-48 Vol.48 原渕 勝仁さん

帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-48

VOL.48
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-48

 

 事件当時、平沢にも大切な家族がいた。故郷の小樽には両親も健在であったし、妻もいれば、子どもは5人いた。旧満州の大連にいた長女の静子の話をしたが、その長女が産んだ孫も東中野の自宅で一緒に暮らしていた。どのくらいの広さの家だったのかは定かではないが、終戦直後のことである。狭い部屋に家族が重なるように寝ていても、あの戦争を生き延びた安堵感と家族の絆の大切さをかみ締めて毎日を過ごしていたはずだ。

 長女の静子とその子どもは大陸から命からがら引き揚げてきた。やっと安穏な生活ができると思っていたはずだ(大連の三越に務めていたらしい静子の夫がこの時点でどうしたのかは不明。静子とその子どもは当時東中野で、平沢と同居していたらしい)。しかし、帝銀事件が彼らの人生を大きく揺さぶることになる。

 平沢が小樽で逮捕されたのは事件から半年近く経った1948年8月21日。身柄が小樽から東京に移送される列車内にも新聞記者やカメラマンが殺到した。まず、上野署で、また、警視庁に移されても取り調べの最中の帝銀事件の容疑者の写真を撮影しようとマスコミは躍起になっていた。その頃のマスコミにはプライバシーとか人権という意識はほとんどなかったみたいで、笑い話のような珍騒動がいたるところで起こっていた。なんと、取調室の入っている建物の屋上に侵入したカメラマンがロッククライミングのように縄を使って取調室の窓まで降りてカメラのシャッターをぱちり、と。平沢逮捕に貢献した所謂〝名刺班〟の居木井為五郎警部補がまさに取調室で平沢に対峙している決定的写真をわたしは見たことがあるが、そうやって撮影したと聞いて笑ってしまったことがある。しかし、笑い事で済まされることではない。特に容疑者の家族にとっては。

 マスコミの取材攻勢は事件が事件だけにますますエスカレートして行った。当初は犯行を否認していた平沢貞通であったが、3度の自殺未遂のあと犯行を自供している。以降、平沢の家族にはほぼ100%プライバシーがなくなったと聞いている。当時はいまのようなテレビもないわけだが、新聞・雑誌の記者やカメラマンが東中野の平沢宅に押しかけて、家の中にまで土足で入り込んで写真を撮って行ったりしたのだそうだ。そのときの脅えた静子と子どもの写真も何かの資料で見た記憶がある。その脅えきった静子の目が忘れられない。

 そして、考えたのが、その後、平沢貞通の家族がどうなったのかということだ。結論から言うと、妻のマサ以外、5人の子どもたち全員が平沢の戸籍から出ている。そして、のちには妻とも離婚している。そもそも女の子どもは結婚して戸籍を離れているが、平沢には当時、長女・静子を頭に長男・達也、二女・曄(はな)、二男・瞭(あきら)、三女・宨子の5人の実子がいた。

 二女・曄とその夫で、丸の内の船舶運営会に勤める山口伊豆夫に関しては、平沢の事件当日のアリバイのことで色々と語られているし、三女の宨子はのちにアメリカ人と結婚して日本を離れたと聞いている。しかし、彼ら子どもたちのその後に関しては、帝銀事件そのものが時間の経過とともに忘れられるにしたがって、いまでは誰も関心を示さなくなっている。

 しかし、彼らはどんな人生をそののち送ったのだろうか。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など