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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-42

VOL.42
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-42

 

 これまで、七三一部隊に関する映画は、わたしの知る限り唯一、一本だけ製作されている。それが香港映画の『黒い太陽』。

 どういった経緯(いきさつ)でこの映画が香港で製作されたのか詳しくは知りえないが、当初、日本では販売用のビデオでしか観ることができず、わたしの周りで観たという人の感想は概して酷いものだった。随分と経ってから、わたしも知人が持っていたビデオを借りて、この作品と対面したのだが、確かにこれは一般的な映画のジャンルには入らない〝恐怖映画〟もしくは〝スプラッタ映画〟だ。七三一部隊が実際にやったことが文字通りに〝恐怖映画〟そのものであるというブラック・ユーモアのつもりで作られたというのなら返す言葉もないのだが、製作者は森村誠一の『悪魔の飽食』を読んで、その中に描かれている日本人の蛮行をそのまま映像化したとコメントしているらしいのだが、ネズミの群れの中に生きた猫を一匹、放り込むあの動物虐待といわれているシーンなど、どのシーンも目を覆いたくなるような場面ばかりであった。

 確かに、七三一部隊がやったことは、あの生体解剖などはいくら戦時中であったとしても人間性を一片も感じさせない、悪魔の所業である。しかし、あの状況のなかにあっても、あれをやらした、または、やらされた七三一部隊員に人間らしい苦悩や後悔の念がまったくなかったのかというと、それはあった。

 その部分をある七三一部隊員を主人公にして映画にしようとした日本の映画監督、巨匠がいた。それが映画『金環食』『華麗なる一族』など、社会派の大型ドラマを得意とする故・山本薩夫監督であった。山本監督からは、森村誠一の『悪魔の飽食』が出版された直後から映画化に向けてアプローチがあったと、わたしに話してくれたのは下里正樹氏であった。下里氏は、あの七三一部隊のもと隊員に最も多く(下里氏いわく100人以上に)取材したジャーナリストであり、森村誠一氏が『悪魔の飽食』の共同執筆者と認め、そう公言している人物。その下里氏自身が山本監督に依頼され、脚本執筆にかかわったというのである。しかも、脚本はほぼ完全な形で出来上がっていて、これから撮影に入ろうか、という直前に山本薩夫監督が病気で亡くなってしまい映画化の話は流れてしまったというのである。

 まさにこれぞいわくつきの映画と称して間違いのない映画である。なんと、わたしは、そのいわくつきの映画をそのまま若松監督に提案して、その製作に向けてわたし自身が準備を進めているとき、若松監督が交通事故死してしまうのである。七三一部隊の映画を作ろうとした二人の日本人映画監督が二人とも準備中に亡くなっている。それは単なる偶然、めぐり合わせに過ぎないわけであるが、あの七三一部隊を映画化するということは容易なことではなかった。

 実は、若松監督の死後も、この企画はそのまま眠らせて置くには惜しいということなのか、言葉は的確ではないのかもしれないが、まさに〝亡霊〟のように現れては消え、消えては現れる、という迷走を繰り返しているのである。一つは、若松監督の遺志を受け継いだかつての〝若松組〟が、そしてもう一つはこのわたし自身が介在して〝中国〟が七三一部隊の映画化に動いていたのである。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など