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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-30

VOL.30

原渕 勝仁さん

オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-30

　こういったことはこれまでも何度もあったらしく、古くから支援している人も何人も離れて行った。もしかして、わたしは鈍感な人間なのかも知れないが、こんなことがあっても決定的に絶縁をするようなことにはならなかった。

　その頃、わたしは帝銀だけでなく、若松孝二監督の密着取材をしていたことから赤軍関連の人々ともしばしば接触していた。人権活動家として、新左翼の活動にも興味を持っていた武彦氏は、よく、わたしに電話をして来た。

　あとで、理解したが、こうやって電話をして来るときは金銭的にも精神的にも追い詰められているときで、わたしに限らず甘えられる支援者のもとに手当たりしだい電話をしていた気配がある。しかも、決まって抗うつ剤を服用していて、躁状態で、ちょっとしたことでキレていた。わたしがレバノンで岡本公三に接触したことなど、興味があるらしく電話口でいろいろと質問をして来た。

　しかし、わたしが少しでも自慢げに話したりすると、もの凄い勢いで、「あなたは赤軍の取材をしていて、彼らの真実に本当に迫れているのか」と、極めて本質的なところを追及して来るのだ。テロリズムに関して、あなたは何か深く考察したことがあるのか。そもそもマルクスの『資本論』を読んだことがあるのか。……それはそれはもの凄い剣幕で、電話口で問い詰められるのである。

　わたしは、しどろもどろで自分でも何を言っているのか整理がつかず、もういい加減にして下さい、と言って、電話を切ることしばしば。ときには何も言わずぷつっと一方的に電話を切ってしまったこともあった。「もう二度と、わたしの前に顔を出すな」などと、宣言されたこともあった。

　しかし、これが不思議なのであるが、数日後に必ず電話がかかって来て、わたしに対して、謝るのである。決まって、そのときは「あのときは抗うつ剤を服用していて」「本当に申し訳ない」と。

　逆に、わたし以外の支援者が同じような状況で、感情と感情がぶつかり合う現場に遭遇することもしばしば。たとえば、こんなことがあった。場所は、新宿の京王プラザホテルであった。「平沢貞通氏を救う会」の集まりが一時、このホテルの喫茶ルームで行われていた。どういったことで感情的になったのか記憶にないが、人権活動家で三浦和義や和歌山カレー事件の支援活動をしている山際永三氏に対して、武彦氏がその場で絶縁を宣言している現場に遭遇した。

　山際氏はこれまでも多くの冤罪裁判で無罪を勝ち取っている凄腕の人権活動家である。しかし、そのなかで、首都圏連続婦女子殺害事件で無罪を勝ち取った小野悦男が出所後に同じような婦女子殺害事件を起こしてしまったのだ。武彦氏は、その場で山際氏に決別の意味で、あてこするような言い方で小野悦男の話を持ち出していた。あれほど、熱心に支援活動をしてくれていた方も、以来、ぷっつりと会合に姿をあらわさなくなる。

　弁護団会議でも、武彦氏に対して、皆が腫れ物に触るようにしていたのは、間違いなく、こういった武彦氏の行いが原因していたのは間違いない。

プロフィール：原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴：1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作／TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入！よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など