コラム 帝銀事件とは何だったのか-28 Vol.28 原渕 勝仁さん | GHQ.club

GHQ CLUB. あの日あなたは何をしていましたか? あなたにとってGHQとは?

HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-28 Vol.28 原渕 勝仁さん

帝銀事件とは何だったのか

GHQ
MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-28

VOL.28
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

article

 

オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-28

 

 これは「コルサコフ氏症候群」と呼ばれる症状で、記憶が断片的に寸断してしまう症状で、その失われた記憶を修復しようと頻りと嘘をつく、いわゆる「作話」をしてしまうのだそうだ。これは、この症状に関しては専門の医学書にも記述されていることなので、間違いのないことであろう。

 だから平沢の自白は証拠にならないということなのだが、逆に考えてみると、平沢には自分が犯行に及んだことも記憶から消失していた。だから自分はやってないと本気で死ぬまで〝嘘〟を主張し続けたともうがった見方ができなくもない。弁護団会議で、そのような平沢に不利になるような話をすることはタブーなのだが、そもそも、この話もあって、とにかく心理学的アプローチは事件を解決する決定打にはならないと、わたしは考えている。

 筆跡鑑定などもそうだが、この種の鑑定にどこまで科学的な信用性・確実性があるのか。多分、未知数なのだろう。たとえば、犯行現場に犯人の指紋が残っていた。あるいは湯のみ茶碗に犯人の唾液が残っていて、DNA鑑定の結果、平沢のDNAと違っていた……ということになれば、恐らく裁判の結果はひっくり返り、当然、再審請求も認められ、平沢の無実が証明されることになるのだろう。しかし、現実には、そこには残念ながら至っていない。

 こういった議論は、恐らく、何度も何度も繰り返されて来たはずだ。だから、やっぱり、この曖昧模糊とした不確かな状態をスパっと解決する特効薬として、〝真犯人説〟に向かってしまうのである。

 弁護団会議には、毎回、会場を提供してくれている部落解放同盟の安田聡さんや映画監督で人権活動家の山際永三さんが参加している。二人とも、熱心に再審請求人の故・武彦さんのことを個人的にも支援してくれていた。お二人とも人格者で、人間的にも素晴らしく、親しくさせていただいているが、この二人と、わたしの間には埋めることのできない大きな溝があることが決定的となっている。これに関しては、再審請求人の平沢武彦さんの〝孤独死〟と、第20次再審請求についてのお話のときに詳しく触れたいと思う。

 これは、わたしのジャーナリストとしての、これからの生き方にも関わる非常に、自分にとっては大きな問題である。それは、自分は「支援者」なのか、「取材者」なのかという問題である。帝銀事件だけにかかわらず、わたしにはいくつか深く関わっているテーマがある。それは、映画監督の若松孝二監督との出会いから始まり、平沢武彦さんとも関係するのだが、とくに救援連絡センターの山中幸男氏を通じて、赤軍関連の取材をしている過程で、つねに問いかけられることなのである。「支援者」に徹するのであれば無実を訴えている弱い立場の死刑囚・平沢貞通やよど号メンバーの主張を全面的に信用して、彼らを疑ったりしたらダメなのである。彼らの無実をどんなことをしても晴らしてあげる。それが本当の「支援者」なのであろう。時に怪しい、疑わしい腑に落ちない部分があったとしても、それには目をつぶる。なんとしても裁判で無実を勝ち取る。それが〝人権活動家〟の使命なのであろう。そうであるとするならば、わたしは「支援者」ではない。明らかに。……

 

  • (クリックすると拡大表示されます)
  • 【原渕勝仁の著書】
  • 『若松孝二と赤軍 レッド・アーミー』
  • 情況新書011/世界書院・発行
    定価1200円+税

 

img_column_002_02
プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など