コラム 帝銀事件とは何だったのか-22 Vol.22 原渕 勝仁さん | GHQ.club

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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-22

VOL.22
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-22

 

 Iさんが佐伯省のペンネームで書いた著書『疑惑α』(1996年刊行)には、歯科医Oのことが「能口ヒロシ」という名前になっている。実は、Iさんは、この話を2年前に作家の和多田進氏に詳しく話し、和多田氏は、自らの出版社「晩聲社」から『ドキュメント帝銀事件』(1994年刊行)を自ら書いて出版している。ここではOの名前は「奥山庄助」となっていた。

 その和多田氏の本の中で、1954(昭和29)年1月19日、A県Y駅で起こった「轢死」事件のことが出てくる。死亡したのはB県ロッジの主人、「大森精一」。このロッジに「奥山庄助」が頻繁に出入りしていた。そして、「大森精一」の死には不可解な部分があって、和多田氏の本の中でも、のちに書かれた佐伯省の本の中でも、歯科医のOが殺したのではないかと書かれていた。すべてが状況証拠に過ぎない中で、これを実名で書いたら確かに名誉毀損どころで済む話ではない。だからわたしも口が裂けてもここに実名を書くことはできないが、Iさんの本には、地名と一部の人名に実際の固有名詞を使っているので、許される限り、実際の名前で書いてみようと思う。(三億円事件のほぼ実行犯に間違いないS少年も実名はわかっているが、いまだに本名を公表することができていない。)

「大森精一」が列車から落ちて、轢死したのは水上温泉にほど近い、群馬県の湯檜曽駅である。これがA県Y駅のこと。当時の駅長の目撃談も書かれていて、「大森精一」が駅に到着した列車から落ちた事実が語られているが、以下はどれだけ信用してよい話か。なんと、その同じ列車に歯科医O(「能口ヒロシ」「奥山庄助」)が乗っていたと。それは駅長がそう証言したのか。周りの誰かが証言したのか。実は曖昧なのである。

さらに検死の結果、どうも「大森精一」の遺体の胸のあたりに小さな針で刺したような赤いシミのような傷があったというのだ。ここからIさんは、陸軍中野学校もしくは、それに準ずる特務機関で訓練を受けた歯科医Oが万年筆型毒針で殺したのだとほぼ断定に近い言い方をしているのである。確かに、ミステリー小説としては、こんな面白い推理はないぐらい面白い。これは歯科医Oが実は、帝銀事件の真犯人で、戦時中、Oが特務機関員であったという推測(あえて、ここではこう言っておく)から導き出されたストーリーなのである。

 そもそも、なぜ、「大森精一」は殺されなければならないのか。そこをもっと詳しく、納得のいく形で知りたい。和多田進氏の本には、帝銀事件で事件の翌日、安田銀行板橋支店に帝銀で奪われた小切手の換金に来た〝土建屋風〟の男がこの「大森精一」だったのではないか。大森は自ら所有するロッジをアメリカ軍に貸していて、その賃料を仙台にあるGHQの渉外課によく取りに行っていたらしいのだ。そこから東北大学付属病院の薬学部長・高瀬豊吉のところに松井蔚(しげる)の名刺を出して、青酸カリをくれと言ってきた謎の男も、この大森ではないかと。また、平沢も妹の杉山起誉の息子が東北大学付属病院に入院していたとき、愛人の鎌田りよと二度、見舞いに来ているので、大森でなければ、それは平沢本人かもとも。

平沢の妹や愛人の名前などは多分、実名だと思われる。特に鎌田りよは、そのロッジでも平沢といるところを目撃されていて、帝銀事件の謎というか暗闇に不思議な不気味な姿で登場しているのである。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など