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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-10

VOL.10
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-10

 

 もともと平沢は、いまの東京都・麹町で1892年に生を受けている。生まれたのは憲兵隊の宿舎であった。そう、平沢の父親は憲兵だった。だからなんだと言われると、返す言葉もない。これは確たる確証があって書いているのではない。しかし、ある可能性を考えたとき、平沢のその後の行いをみて行くと、父親が憲兵だったということを、そのまま見過ごすことは、わたしには出来ないのである。

 そして、平沢は小学生の頃に北海道の札幌に憲兵であった父親の赴任にともなって、移住している。日清戦争から日露戦争にかけての頃である。その時代の北海道がどういう存在であったのか。つまりは、当時のロシアの動向を、はっきり言って、ロシアのスパイを摘発するべく、日本の軍隊が必死になっていた場所である。その北海道に、平沢の父親は憲兵隊の隊長として赴任したのである。おのずとその与えられた使命が推測できるはずだ。

 しかし、平沢の父親は憲兵隊を除隊して、突然、あっさり、何の脈絡もなく、牛乳販売の仕事を始めるのである。加賀百万石の前田家の牧場にも勤めている。どういった経緯(いきさつ)があったのか。他人の人生をとやかく穿鑿してもせんのないことであるが、そこに何か意図があったとしか考えられない。わたしは、平沢の父親は何らかの意図を持って、憲兵隊の使命を秘めたまま市井の人間として潜伏したのではないかとみている。こういった特殊な使命を帯びた機関員は家族の中にあっても、秘密の中で使命を受け継いで行くものなのか。そんなことはないのか。ここまで来ると、それは小説の世界であまりにも現実離れしてしまうが、息子であった平沢貞通の画家になってからの活動をつぶさに見てゆくと、彼にも何らかの使命が与えられていたのではないかと思わざるを得ないのだ。

 平沢はのちに自らが所属する日本水彩画会の機関誌『みずえ』に何度も雑文を寄稿している。その中に北海道を旅した紀行文を書いている。当時の北海道には対ロシア戦を念頭にして、武器や兵士を北方に送り込むために鉄道網が整備されていた。それは日露戦争の勝利によって割譲した樺太の50度以南にも及び、とにかく、その鉄道網はすさまじいものであった。機関誌『みずえ』に平沢画伯は風景画のモチーフを求めて、北海道中の鉄道を踏破したことを得意げに書いているのである。それは北海道に留まらず、樺太の鉄道も踏破したと書いている。平沢は単なる鉄道オタクだったのか。ちゃんちゃらおかしい。そんなわけない。彼は何らかの使命、いや、意図を持って北海道から樺太の鉄道を踏破して、何かをしていたのだ。それは、まさに特務の仕事であろう。

 太平洋戦争が勃発してからの平沢画伯の足跡はほぼ特定できていない。つまり、大戦中に平沢がどこで何をやっていたのかはほぼわかっていない。ただ、長女の静子が大連(旧満州)の三越に勤める男性と結婚していたことから、平沢がその大連の三越で個展を開いていたことは記録に残されている。大連と言えば、あの七三一部隊があったハルビンとは指呼の間である。平沢貞通と七三一部隊。果たして、そこに関係はあったのか。そして、平沢は本当に特務機関員であったのか。

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など