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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-6

VOL.6

原渕 勝仁さん

オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-6

　警視庁には、当時、こういった旧軍関係者、中でも特務機関員を重点的に調べていた特命捜査官が何人かいた。その一人が成智英雄。彼は手記の中で、七三一部隊員を徹底的に捜査して、犯人らしき麻薬中毒者を特定したが、結局、行方がわからなかったと。何らかの混乱と錯誤の中で、「諏訪三郎」という名が流布されたが、当時、生存していた軍医の中に諏訪と言いう姓の人物は二人しかいなく、一人は千葉県出身で1927年東大医学部卒の「諏訪敬三郎」、もう一人は福岡県出身で1923年京都府立医専卒の「諏訪敬明」。アリバイその他の状況からして成智が怪しいとめぼしをつけたのは、諏訪敬明らしいのだが、どうやら真犯人ではなかった。

　七三一部隊の部隊長、石井四郎は当時、丸の内の郵船ビルの中にあったGHQの参謀第二部（G2）に何度も呼び出されて取調べを受け、自分の部下の中に犯人がいるらしいと述べていたが、捜査員が七三一部隊の隊員、あるいは登戸研究所員の中から犯人を特定することは結局できなかった。しかし、陸軍中野学校出身者の調査は難航を極めていた。帝銀事件のあの鮮やかな犯行は、特別に訓練を受け、胆力も備わった中野学校出身者しかないと、これを本命視して捜査していた捜査員が警視庁にいた。それが鈴木清捜査統括主任。その鈴木班が帝銀事件直後の2月に逮捕したのがOという歯科医で、水彩画家だった男である。

　わたしは帝銀事件の真犯人は平沢貞通ではなく、このOではないかと疑っている。しかし、Oは逮捕されるが、すぐ釈放されている。平沢冤罪説を信じるある人物が「なぜ、Oを釈放したのか？」と、当時の主任検事だった高木一を問い詰めると、高木は「Oには土地勘はあったが、識勘がなかった」と、納得のいかない理由を述べたと伝えられている。Oは平沢と同じ、日本水彩画会に所属している。この会に何人の会員がいるのかは定かではないが、獄中の平沢にOのことを知っているかと問うた人がいる。そのとき、平沢は知らないと。Oも平沢のことは知らないと捜査員に話していたらしい。しかし、知らないわけがないのだ。同じ日本水彩画会に所属していて。何か、そこにお互いに言えない何らかの秘密があるように思えてならない。

　鈴木清捜査統括主任は甲斐文助や成智英雄のように手記とかは残されていない。従って、どのような経緯で鈴木班がOを逮捕したのか詳細はわかっていない。だが、陸軍中野学校の出身者に真犯人がいると本命視していた鈴木班が逮捕したということは、このOは特務機関員であったと考えるのが順当ではないのか。ここで、陸軍中野学校について、さらなる考察を進めて行きたいのであるが、実は、陸軍中野学校に関しては殆ど正確な資料が残されていない。中野学校といえば、先晩、亡くなった小野田寛郎さんが有名だが、終戦末期、彼が出た二俣分校の出身者を入れても卒業生はわずか二千人ほどである。しらみつぶしに調べればこのOのこともすぐに判明しそうなものだが、帝銀事件と陸軍中野学校との明確な証拠はどこにも存在していない。いま、現在は。……

プロフィール：原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴：1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作／TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入！よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など