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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-4

VOL.4
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-4

 

下里氏によると、七三一部隊には少なくとも20人以上の画家が隊員として存在していたと。つまり、当時は、いまのようなビデオ・カメラもないし、写真もカラーではなく、白黒しかない時代。七三一部隊では、病原菌に感染させたマルタ(人体実験に処される外国人捕虜)の病状の変化や解剖した内臓のスケッチを、その画家たちにやらせていたというのである。時間がなく、さっさと描くため油絵などではなく、水彩画家が重宝された。なかにはいまで言うイラストレーターのような仕事をしていた者もいたらしいが、多くが水彩画家であったと。

これは信憑性に欠けるし、きちっとした証拠もないけれど、下里氏が取材した水彩画家の隊員によると、その20人の中に帝銀事件の平沢貞通によく似た人物がいたと証言しているそうなのだ。勿論、こんなことを俄かに信じられるものではないが、こののち真犯人についてお話をするとき、このことを覚えて置いて欲しいとだけ言っておきたい。

油絵ではなく、水彩画というのがある信憑性を担保しているのだが、平沢は日本におけるテンペラ画の第一人者であると同時に、日本水彩画会の戦前における重鎮の一人であったということだけここでは留めて置く。

よく、製薬会社が新薬を開発したとか、新しい医学上の発見などで、動物実験によるデータが発表されたりする。しかし、本当に人間に効果があるのかは人間で実験しないと本当のことはわからないそうなのだ。たとえ、人間に近いサルなどで実験してもダメなのだと。つまり、七三一部隊が医師の倫理もへったくれもなく、人体実験で得たデータは当時としては何物にも代えがたい超がつく貴重な資料だったのだ。

それを戦勝国のアメリカとソ連が奪い合った。それが形として現れたのがハバロフスク裁判。日本を占領していたアメリカは慌てて、七三一部隊の資料の独占に走った。そして、あの石井四郎に密かに面会し、戦犯免責を交換条件にして……。

まさにそんなタイミングで発生したのが帝銀事件であった。捜査の目が旧・軍関係者、中でも七三一部隊に向かおうとしている。占領軍であるGHQが捜査の対象から旧・軍関係者を外せと圧力をかけた背景には、この七三一部隊を保護する裏の意味が存在していたのである。

石井は帝銀事件の直後、警察に呼ばれて取り調べられている。そのとき、自分の部下に犯人がいるような気がすると、そういった発言をしているらしいことが伝えられている。しかし、それは別に確証があって言っているのではなく、ましてや事件解決に協力しようというしおらしい姿でもなく、ただ、自分の責任を回避する方便にしか過ぎないわけであるが。

もともと人間として、何かが欠けているのか。戦争と言う異常な状況が人間を〝悪魔〟にしてしまうのか。帝銀事件とは何だったのか。そもそも人間とは何なのか。答えの出ない迷路に入り込んでしまったかのようだ。

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など