第18回 X氏ヒストリー 「大棋士・升田幸三 」 | GHQ.club

GHQ CLUB. あの日あなたは何をしていましたか? あなたにとってGHQとは?

HOME > フォトストーリー > 第18回 X氏ヒストリー 「大棋士・升田幸三 」

X氏ヒストリー~占領期をどう生きたか

第18回
「大棋士・升田幸三」

 藤井聡太君と呼んだら恐れ多いか、彼の話題で、今、世は大騒ぎしています。だからというわけではありませんが、GHQと将棋界の話題を提供します。知る人ぞ知る升田幸三さんの話です。それは、ブログ「ブラジルから王手飛車取り」にアップされています。

升田幸三とGHQのすごい話

 日本が敗北した太平洋戦争後の話です。
 その勝者である連合国側は日本という国をもう二度と戦争をしない国に改造しようと軍国的要素を全て排除しようとしていたんです。
 将棋というボードゲームは頭脳を使う戦術ゲーム
 もちろん「将棋」もその排除の対象となりました。
 時は1947年夏
 場所はGHQ本部
 こんなエラいところ1人の棋士が現れたんです。
 その風貌はまさに野武士、破天荒で酒豪、煙草も一日に100~200本も吸う。とても分煙化が進む現代社会では生きていけないんじゃないかってぐらいの超ヘビースモーカー
 でも頭の回転の速さと度胸はズバ抜けていたんですね、
 そう、この男こそが日本将棋連盟がGHQに送り込んだ男、大棋士「升田幸三」です。
 この時まだ無名の升田幸三ですが、のちに史上初のタイトル三冠王になったり、将棋の寿命を300年も縮めたと言われるぐらい将棋を進めた偉大な人物です。
 対するGHQの本部で待ち構えていたのは、GHQのナンバー2であるホイットニー将校。GHQのナンバー1あのダグラス・マッカーサーの次に偉い人物で、日本国憲法の草案に携わるなどGHQ内でも切れ者として知られていました。
 そして天才升田幸三とGHQのNo.2ホイットニー将校の将棋の運命を賭けた闘いがGHQ本部の一室で始まります。
 ホイットニー将校が待ち受ける部屋に入るなり升田幸三はこう言いました。
「酒が飲みたい。客人にビールも出さないマナーがあるか?」
 この時すでに升田幸三は酔っぱらっていたという説もあるほど酒好きな升田幸三ですが、酒を飲めばトイレが近くなりますよね。難しい質問をされたらトイレに行ってじっくり考えよー!っていう作戦です。
 それに万が一のために「酔ってたから何も覚えてないでーす!」と言うこともできるってのが升田幸三が用意していた作戦でした。
 もちろんこれにはGHQ側は意表を突かれました。
 しばらくの間考えたGHQ側でしたが、結局升田の注文通りにビールが持ってこられます。
 そしていよいよ升田に対し、将棋の運命を賭けた質疑応答が始まります。
「日本の武道は危険なものではないか?」
「そんなことはない。「武」という文字は戈(ほこ)を止めると書く。それに武道とは己を磨くものである」
「将棋は取った相手の駒を自分の駒として使用する。これは捕虜の虐待であり、人道に反するものではないか」
「取った相手の駒を自分の駒として使うということは優秀な人材に働き場所を与えているのだ。しかも飛車は飛車、金は金と同じ階級で使われる。こんな人道的なことはあるか? 一方でチェスは取った駒をそのまま捨てる。これは戦争でいう虐殺だ。しかも勝つためであるならクイーンまで犠牲にする。これは諸君らのレディースファーストに反するのではないか?」
 あっもうそれ読んでました。と言わんばかりの完璧な反論です。
 でもホイットニー将校は切り札ともなるであろう事実を入手していたんですね。
「戦時中に将棋の名人が軍部に戦術的指導をしていた事実がある。日本の軍部が間違った方向に進んだのは日本の将棋とその名人のせいではないか?」
 ここまでは意味のとらえ方の差異だったので、なんとかなりましたが、今度は事実です。しかも将棋が軍部に介入していたという事実。
 もう浮気現場見られた時ぐらい言い訳できない状況です。
 しかし、升田幸三は逆転の発想でこのピンチを切り抜けます。
「戦争中、木村名人が軍部に講演して回り、日本が負けたのは事実だ。しかしもし俺が講演して回っていれば日本が勝っていただろう。あの人はアメリカにとっては大恩人なんだ。感謝したほうがいい」
 見事な切り返し!
 まさに逆転の発想です。
 ホイットニー将校の読みではこれで将棋は詰むはずでしたので、これ以上の手は読んでいません。
 なにも言い返すことができないホイットニー将校を見て升田幸三はここぞとばかりに畳み掛けます
 酒、チェス、血圧から政治まであらゆることを長々と説教たれます。
 その時間……なんと5時間!
 将棋の対局は朝から深夜まで12時間以上あるときもありますから升田幸三にとっては何ともないかもしれませんが、ホイットニー将校からしたらもうたまりません。
「こんなに説教されるのマッカーサーさん以来だわ~」とか思っていたんでしょうかね。
 GHQのナンバー2ですからね。
 そして説教が終わると升田幸三は最後に一言だけお願いするんですね。
「戦犯の連中を、殺さんで欲しい。取った駒を生かす将棋のようにどうか生かして役立てる道を考えてもらいたい」

 終始圧倒した升田幸三の見事なまでの勝利で、この戦いは終わります。そして、この升田幸三の説教が功を奏したのか、全員処刑される予定だった日本の戦犯や捕虜をGHQは釈放します。
 この釈放された中に岸信介という後に総理大臣になる男がいて、その孫が安倍晋三総理大臣っていうちょっと「へぇ~」ってなる話でした。

PS この話は結構有名で「やりすぎ都市伝説」という番組でも紹介されており、帰りにウイスキーをもらって帰ったという説まであるほどです。
 今現代でも老若男女問わず親しまれ、存在しているのはこの升田幸三という偉大な棋士のおかげかもしれません。