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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-69

VOL.69
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-69

 

 犯人は赤痢の予防薬と称して行員16人全員に(10代の少女や幼児を含む用務員の家族らにも)言葉巧みに毒薬を飲ませている。しかも自分で飲んでみせるという離れ業まで披露している。おそらく犯人は事前に何度も何度も予行演習を繰り返していたはずだ。自宅で誰にも見られずに一人、目をぎらつかせながら練習する犯人の姿を想像するとその執念たるや尋常なものではない。

 わたしは1994年TBS『THE・プレゼンター』(昭和怪犯罪史)でこの場面を再現ドラマにした。熊井啓監督も映画『帝銀事件・死刑囚』で生き残りの行員の証言に基づいて完璧に再現している。犯人が自分で飲んでみせる場面など鬼気迫るものがあるのだが、犯人はこのとき、「この薬はGHQから支給されたもので非常によく効く」「歯の琺瑯質を傷めないようにこうやって飲んでください」と言って、口を大きく開いて舌を出してその舌の上に薬を垂らすようにして飲んでみせるのである。確かにそうすれば歯に触れることもないし、飲んだ薬が一気に喉を通過して胃に流し込まれる。巷間これは犯人が被害者全員に確実に毒薬を飲ませるために考えたやり方だと。このやり方まで、陸軍中野学校で訓練していたとしたらほぼ犯人はその世界の人間ということになるが、わたしの取材ではまだそこまでには至っていない。したがって、この一連のやりとりから何かを発見するまでには、わたし自身、至っていない。

 これ以上、何かを語ることはないのであるが、ある人物から興味深い指摘を受けたので、それについて話してみたいと思う。これが事実なら新発見ということになるのであるが。それは犯人が言った「歯の琺瑯質を傷めないように」の《琺瑯質》という専門用語に関して、である。

 誰しも子ども時代、歯磨きの指導を学校や家で受けたことがあると思うが、歯の表面の硬い部分のことは《エナメル質》と言っていたように思う。わたしもそう認識していた。人によっては確かに《琺瑯質》と言う人もいた。どちらの表現も硬い歯のイメージにぴったりなネーミングで、いま、ネットなどで調べても特にどっちということなく、両方が適度に使われている。

 帝銀事件が発生したのは終戦直後の昭和23年。よく戦前に英語は敵性用語であるから野球で「ストライク」は「よし」などと軍の命令で換えさせられたなど、笑い話として聞いたことがある。同じように帝銀事件当時は戦前のなごりで一般的に《エナメル質》と言われていたのが《琺瑯質》に換えさせられ、それを犯人がそのまま特に意識せずに戦後になっても使ったものではないか。普通、そう考えるものであろう。

 しかし、わたしが出会ったある人は、わたしの真犯人説に関して、つまり、歯科医のOについて、こんな興味深い指摘をわたしに話してくれたのだ。それは、歯科医の世界で、出身大学によって《エナメル質》と呼ぶか《琺瑯質》と呼ぶかが明確にわかれるのだと。わたしが帝銀事件の真犯人と目する歯科医のOは、歯科専門学校卒業後、現在の日本医科歯科大学の前身、日本高等歯科医科学校に研究員として勤務していたのだ。なんと、その日本医科歯科大学では伝統的に《琺瑯質》という表現を使っていると。真偽のほどは未確認である。もしこれが事実だとしたら帝銀事件の〝俗説〟があらたにまたひとつ誕生することになるのだが。……

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など