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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-67

VOL.67
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-67

 

 帝銀事件ほど、色んな俗説が検証もされないまま恰(あたか)も事実であるかのように語られる事件はないのではないか。それは近年の北朝鮮報道にも似た部分があって、とにかくきちっとした裏取りができないがために面白おかしい俗説ばかりがまかり通ってしまうのである。

 犯人が毒物をまず自分が飲んでみせるテクニックであるが、スポイトにあらかじめ水を入れていたというのもそうだが、薬壜のなかに油を入れておいて、当然、「水と油」というくらいだからまじわらず、毒薬の上に膜のようになった油を犯人は飲んで、下の毒を行員に飲ませたという説であるが、これなどは生き残りの行員の一人が「飲んだときガソリンのようなにおいがした」というのが根拠になっていて、そう言われれば、そうかな、などと変に納得してしまうのだが、確かに第一薬のほうはぶどう色した小型の壜で、なかの液体が見えにくいこともあってそういった仕掛けができなくはないと思うが、どこからこういった発想が出てきたものなのか。(けっこう長く、わたしはこの油を使った説を色んな人に吹聴していたのだが)、また、別の識者は犯人は事前に青酸性毒物を解毒する薬を服用していたからなんともなかったんだと主張するのだが、そもそもそんな解毒剤が現に存在しているのか。具体的なものを示されたことはついと見たことがない。

 こんな発想をする方もいた。犯人も口にした第一薬には毒性はなかったのだ。むしろ犯人が単なる水みたいなものと言って、1分後に被害者16人全員に飲ませた第二薬に秘密があったのだと。確かにあのとき、犯人は第二薬は飲んでいない。自分が飲むよりも被害者たちに求められて、彼らの湯飲みに本当に水かお茶でも注ぐようにどぼどぼ注いでいるのだ。この第二薬が胃のなかで第一薬と反応して毒性を発揮したのではないかという説である。しかし、第一薬を飲んだ時点で多くの行員が咽から胃にかけて異変を感じていることなどからしてこの説には無理があるように思えるのであるが。どうだろうか。むしろ、第一薬、第二薬と言って、時間を置いて薬を飲ませることによって、16人全員を犯人の周辺にとどめ置いて、全員を巧妙に毒殺するテクニックであるというのがもっとも説得力のある見方であろう。

 犯人が使った毒薬が〝遅効性〟の特殊な毒薬であろうという見方も、飲んで瞬時に反応するような青酸カリなどだと、先に飲んだ人が早くに苦しみ出したらほかの人は飲まなくて、帝銀の、あのような犯行は犯人にはリスクが大き過ぎて危険すぎるわけだ。陸軍中野学校で多くの敵に同時に毒を飲ませる方法として訓練されたのがこの方法であると、もしかしてわたしもどこかでそう話したかもしれないが、実はこれもわたし自身は確実に裏を取ったと胸をはれるほどの取材をしているわけではないのである。

 登戸研究所の毒物研究班の班長だった伴繁雄が南京で七三一部隊を使って、毒物実験をしたおりなどに見聞きした話として取材者に語ったり、自著のなかで書いたりしているのだが、わたしとしては実際の陸軍中野学校の生き残りの証言のなかに真実を求めているのだか、いま現在、その作業は遅々として進んではいない。

 

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  • 『若松孝二と赤軍 レッド・アーミー』
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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など