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帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-64

VOL.64
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-64

 

 検察庁には、わたしが確認したいもっと凄いものがある。

 その話は武彦氏から何度も聞かされていた。なんと、それは逮捕された平沢に犯行時の犯人の格好をさせ、さらに毒薬を行員に飲ませる場面を再現させた映画フィルムである。しかも、それはトーキーで、35ミリと16ミリの2タイプある、と。これも遠藤誠弁護士が弁護団長の時代、非常に重要な証拠品であるので、現物を確認したいと検察庁に申し出て認められ、再審請求人の武彦氏ほか支援者ら立会いの下、確認作業を行っている。ところが内容を確認しようと、映像のプロ(確か、当時、日本テレビの局員だったある方)が映写機を検察庁に持参して、その場で上映して、参加者全員で固唾を呑んで見ていたら……なんと、始まってすぐにフィルムが切れてしまったのだそうだ。限られた時間のなかでの出来事で、映像のプロといっても本職の映写技師ではなく、フィルムが切れたときの対処まではできなかったらしく、結局、確認作業はあきらめざるを得なかったのだそうなのだ。遠藤誠弁護士の死後、あらたに弁護団を引き継いだ一ノ瀬弁護士らが証拠品の保全を求めて、いま現在、フィルムのデジタル化を検察庁に求めているが、現時点ではいまだ実現していない。したがって、そこにいったいどんな映像が写し出されているのか。われわれ救う会の誰も実態を把握していないことになる。

 しかし、どんな映像が写されていたか断片的なことは当時の新聞記者がかなりの部分、肉薄していたことがある文章にしっかりと残されていた。それを教えてくれ、その文章のコピーまで届けてくれたのが救う会の最年少メンバーで、生前の平沢死刑囚とも面会した経験を持つ細川次郎さんである。聞くと、この方は東京大学の出身で、いまは塾の講師をしている。帝銀の裁判記録のデジタル化に必要な費用を50万円も寄付してくれたりもしている。なんと、教え子が慶応に合格。その親御さんから褒美にいただいたお金の一部であったとのこと。事件が風化しないように帝銀事件をテレビの番組にすることくらいしかできないわたしとは心の在りようが違っていて、いつも頭の下がる思いをしている。

 さて、その文章だが、それは朝日新聞の元・記者だった菅野長吉(かんの・ちょうきち)氏が書いた『朝日新聞記者の証言5/戦後混乱期の目撃者』(朝日ソノラマ)のなかに登場する。以前、取り調べ中の平沢の写真を撮影するために新聞社のカメラマンが屋上から縄を使って、云々、といった話をしたが、さらに、この平沢に事件現場を再現させた映画が撮影されたとのスクープ情報を朝日新聞の記者が掴んで来るのである。使われたフィルムは記者が警視庁のクズ箱からフィルムの空き箱をみつけ、小西六のさくらフィルムであると。35ミリのほうは横浜の横シネ現像所に既に依頼済み。16ミリのほうはこれからということで、16ミリの依頼があるとすれば小西六の淀橋工場しかないとあたりをつける。そして、盗み複写のテクニックを持つ朝日新聞のカメラマンが工場職員になりすまして潜入。予想通りに警視庁から持ち込まれたフィルムを現像したものから決定的な何コマかを複写して、それがスクープ映像として翌日の朝日新聞の紙面を飾ったというのだ。舌をだして薬をいままさに飲んでいる平沢の写真は不気味この上なく、撃的である。

 

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  • 【原渕勝仁の著書】
  • 『若松孝二と赤軍 レッド・アーミー』
  • 情況新書011/世界書院・発行
    定価1200円+税

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など