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HOME > コラム > コラム 帝銀事件とは何だったのか-52 Vol.52 原渕 勝仁さん

帝銀事件とは何だったのか

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MYSTERY
HUNTER帝銀事件とは何だったのか-52

VOL.52
原渕 勝仁さん

占領時代のミステリー・ハンターあらわる!
占領時代の事件、今もって解明されておらず、
「〇〇は無実である」という雪冤の運動は続いている。
ミステリー・ハンター 原渕 勝仁氏がそれら謎を多角的に解明する。

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オキュパイド・ジャパン・ミステリー・ハンター
帝銀事件とは何だったのか-52

 

 平沢の親族では二女・曄の夫である丸の内の船舶運営会に勤める山口伊豆夫のことが頻繁に調書その他に登場する。

 事件当日。つまり、1948年1月26日(月曜日)の平沢のアリバイはどうだったのか?まず、その頃の平沢の自宅は中野区宮園通2丁目32番地にあった。戦災で自宅が焼失して、一時は世田谷区下馬町2丁目21番地の伊藤梅吉という親戚の家に世話になっていたが、ようやく、新築したばかりの自宅に妻マサや長女・静子家族、そして三女の宨子らと住んでいた。地図で見てみると、どちらも帝銀事件の前に発生した未遂事件、それは前年の10月14日に品川区平塚にあった安田銀行荏原支店と帝銀の一週間前に下落合の三菱銀行中井支店で発生しているが、帝国銀行椎名町支店も含めて、また、帝銀の翌日、奪われた小切手が換金された安田銀行板橋支店もそうだが、すべてが環状6号線、つまり、いまの山手通り(事件当時は改正道路と呼ばれていた)に面した地域に存在していて、しかも、平沢貞通が現に、また、かつて住んでいた場所に極めて近い場所なのである。

 それもあって、『疑惑α』の著者、佐伯省氏(亡くなったIさん)は犯行手口が稚拙この上ないことから未遂事件の二つは毒物の知識のない素人の平沢が実行犯で、本番の帝銀はもと特務機関員で、医学知識に長けた歯科医のOが真犯人であると推理していた。しかし、土地勘だけで(勿論、それだけが根拠ではないにしても)犯人にされたのではたまったものではない。


 事件当日、平沢は自分の個展を開いている日本橋の三越に午前中から出かけている。そして、お昼に、その娘婿の山口伊豆夫がいる丸の内の、正確に言うと、千代田区丸の内の1の1にある帝国生命ビル7階を訪問している。これは単なる平沢個人の供述ではなく、複数の第三者の証言に基づくものだけに事実と認定して間違いのないことだ。しかし、そこを訪れて、そして退去した時間に証言と供述との間で1時間ほどのずれがあるのである。


 平沢が出射(いでい)義夫・部長検事に10月9日に供述したとされる第62回聴取書(これは出射検事のでっちあげの聴取書と呼ばれている)によると、丸の内の船舶運営会を出たのが1時半ごろ、ということになっている。これなら事件が発生した午後3時過ぎに山手線を使って充分に間に合う。しかし、実際は娘婿によると、平沢が訪ねてきたのは2時過ぎで、午後4時過ぎに日暮里の山口宅に寄って、二女とお茶を飲んで話し、帰りにタドンをボストンバッグに入れて5時ごろ自宅に帰ったと。

 しかし、これら親族の証言は裁判ではいっさい認められなかった。出射検事の聴取書によると、平沢は1時半ごろ会社を出て、まず上野に行って1時間くらい高島屋で時間を潰して御徒町から山手線(聴取書には省線と)に乗るつもりでホームに上がるとホームの時計が2時28分ごろ。池袋には午後3時10分前に到着したと。確かにこれだと犯行時間にギリギリ間に合うには間に合うが、さらにこのあと、池袋駅から立教大学の裏通りを歩き(当時は雪道でさぞ歩きにくかったろうに)一旦、帝国銀行椎名町支店が遠望できるあたりまで来ていて、しかし、相田小太郎方の井戸にGHQの衛生班のジープが止まっているのを目撃しなければいけないのだ。それはかなりの遠回りで、それだと犯行時間に間に合いそうもないのだ。

 

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プロフィール:原渕 勝仁(はらぶち・かつひと)
略歴:1956年、香川県坂出市生まれ。立教大学法学部中退。
代表作/TBS 『報道特集』「戦艦大和 幻のフィルム」「帝銀事件 絵探しの旅」「連合赤軍事件 36年目の真実」フジテレビ『ザ・ノンフィクション』「ショーケンという孤独」テレビ朝日『ザ・スクープSP』「よど号ハイジャック事件 40年目の真相」WOWOW『ノンフィクションW』「映画監督・若松孝二 17才の光と影」「ミャンマーの幻の格闘技ラウェー」「遥かなる北極点 孤高の冒険家・荻田泰永」テレビ朝日『テレメンタリー』「決着 若松孝二と岡本公三」フジテレビ『NONFIX』「フランスの城で男が描く夢 フレスコ画家・高橋久雄の挑戦」「受け継がれる心と形 狂言・和泉流宗家」フジテレビ『ニュースJAPAN』「スクープ潜入!よど号日本人村」テレビ東京『未来世紀ジパング』「北朝鮮・ケソン工業団地」など